海外オヤジの読書ノート

中年おじさんによる半歩遅れた読書感想文です。今年はセカンドライフとキリスト教について考えたく!

懐古主義・あるいは温故知新の昭和時代有名作家オムニバス集―『短編伝説 めぐりあい』著:集英社文庫編集部

 

本の概要

昭和時代の超売れっ子作家たちによるコンピレーション集。めぐりあいをテーマに13人の作家が13通りの出会いの作品を提示しています。

 

感想

昭和生まれの私ですが、昭和・平成を経て、令和を生きる今、昭和の小説を読むと私からしても古臭く感じます。とは言え当時から超売れっ子の作家達です。今初めて読んでもへええと感心(失礼!)する斬新な作品もありました。

 

この短編が印象的でした

印象に残ったのは、以下の作品です。

 

連城三城彦氏の「ピエロ」。沼田まほかる氏の「彼女がその名前をしらない鳥たち」に通ずるかのような男女関係が描かれています。連城氏のこの作品の方がミステリー風味が強くてぴりっとしていました。

 

半村良「ふたり」は二人の女性を主人公にした小品ですが、昭和感が半端ない。バカを莫迦と書くあたりなぞは、やはり感覚違うなあと思います(いい意味で)。性描写も昭和な感じです。その淫靡さも魅力的。

 

アクが強いのは清水義範の「永遠のジャック&ベティ」。中学一年の英語教科書から出てきたようなジャックとベティ(私の教科書ではMikeとLucyでした)が30数年後に再会する設定。しかも当時の直訳よろしくぎこちなさ満点の会話をするものの、不幸カミングアウト大会になりどうにも滑る。

日本の英語教育レベルの低さがモチーフになっているのですが、国際化が進んでいくとこの面白さもわからなくなるかもしれませんね。

 

その他計13名の作家の短編が収録されています。家から出れないとか、今の自分の本棚がワンパターンだなと思う方にはいいかもしれません。多少古臭く感じることもありますが、新たな発見があるのではないかと思います。

 

評価 ☆☆☆

2020/04/19

短編伝説 めぐりあい

大沢 在昌/五木 寛之 集英社 2017年08月22日
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教科書にはゼッタイ載らない経済知識―『マネーロンダリング』著:橘玲

マネーロンダリング (幻冬舎文庫)

マネーロンダリング (幻冬舎文庫)

  • 作者:橘 玲
  • 発売日: 2003/04/15
  • メディア: 文庫
 

 

本の概要

香港と日本を舞台にした金融経済小説。法律の限界やルール・抜け道を熟知した“秋生”が、かつて手を貸した謎の美女の麗子を追う。ヤクザと女と金と法律が入り乱れる金融系サスペンス。筆者の橘玲氏は経済小説を得意とする作家。

 

感想

かつてファイナンシャルプランナーの勉強をしたことがありました。金融機関で働いていたとはいえ、保険・不動産・相続等々には無知であったので、これらを包括的に勉強できて少し賢くなった気がしたものです。しかし、この本で展開される知識はくらべものになりません。上辺のFP知識なぞ洟にもかからない位深いもの、知識と経験が融合したものだと感じました。

 

知識だけでなく、実効性を問うている

なるほどと思ってしまったのは、その知識の深さのみならず、ルールや決まりが実際にどこまで有効かというポイントが小説で頻出している点。後半部、香港での麗子の私書箱を扱う会社を調べる際、どこまで本人確認をするか、会社はわざわざお金がかかる日本までコールバックをしない(ハズだ)、同じ年ごろの女性の声ならよほどの癖がなければ別人だとはわからない(ハズだ)等々。これはほんの一例だが、パスポートの偽装の話や無記名式の割引債のロンダリングなど、本来法律違反だけれど、確かめようがなく実際抜け穴になっている部分を克明にに描いている。こうした実際どうかという話は、教科書の正論から入る私にとっては新鮮で深く感じました。

 

人間ドラマも悪くない

そんな知識中心の小説かと思うと決してそうではありません。ヤクザ・金・女と主要エンタテイメント要素がしっかり盛り込まれ、サスペンスもあり、普通に面白い。社会系小説の池井戸潤氏の作品と比べると冷めた展開ではありますが、それでもスリリングです。また、秋生の虚無感は結局人は何のために生きるのかをほんのりと投げかけている気もし、普遍的な疑問が小説に味を添えていると感じます。作品最終部で犯人が登場し、結局嫉妬で身を亡ぼしますが、そうした描写も人間の哀しさを上手に映し出していると思います。

 

香港と東京を大フォーカス。知ってる人は楽しい。

そして最後に、土地の詳細な描写。香港にゆかりのある人は旺角やトンキンマンションなどが出てくるし、東京でも井の頭公園や新大久保が出てくるので、そうそうあるよねーと、興味深く読める。他方これらの土地に縁がない人は??ってなってしまうことでしょう。まあそこが舞台ですから仕方ないのですが、風景描写がやけに細かい点が良くも悪くも少し気になります笑。

 

まとめ

まとめますと、エンタテイメント性十分の経済小説です。金融業界の方、海外暮らしに憧れる方、海外投資に興味のある方等には非常に面白く読める本だと思います。

 

評価 ☆☆☆☆

2020/04/28

マネーロンダリング

橘玲 幻冬舎 2003年04月
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世界史で教える栄枯盛衰の法則。米国もそうなるのか!?―『「覇権」で読み解けば世界史がわかる』著:神野正史

「覇権」で読み解けば世界史がわかる

「覇権」で読み解けば世界史がわかる

  • 作者:神野正史
  • 発売日: 2016/09/02
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

本の概要

覇権の隆盛と衰退のパターンを世界史を通じて読み解く本。ローマ帝国中華帝国イスラーム帝国、大英帝国アメリカ合衆国の各史をそれぞれ整理し、その中から歴史上見られるパターンを38の”法則”として提示する。なお、筆者の神野氏は河合塾世界史の講師。

 

感想

私大文系に特化するカリキュラムが用意された高校に通い、楽をしたばっかりに世界史を勉強しないまま高校を卒業し、これまで相当後悔してきました。この本の購入もそうしたことが起因しています。

 

その観点から言うと、この本は世界史を概観する上で非常に有用な本であると感じました。

 

シンプルでわかりやすい

というのも、先ずもって分かりやすい。微に入り細を穿つようなテキストではなく、覇権の流れを端緒から終焉まで見届け、そこに見出されるパターンを確認する形を各章とっているため。その意味では、世界史の初学者のみならず、既修者が頭の整理のために読んでも役に立つのではと感じました。

 

米国、めっちゃ怖い

また、最終章の米国についての記述も非常に印象的でした。モンロー主義を打ち捨てた後の数々の「挑発」「因縁」「誘導」「捏造」は他に多くの書籍で語られているところではありますが、つくづく米国とは恐ろしい国だと感じずにはいられません。それでも米国ファンが消えないのはマスコミの力でしょうか。

lifewithbooks.hateblo.jp

 

日本のとるべきポジショニングは

こうした覇権争いとその栄枯盛衰を横目に、日本はどう対処すればよいのかという疑問は容易に思いつくところです。

筆者の意見は非常に明快で「けっして頂点に立たない」(P.350)こと、としています。

栄えるから衰えるとすれば、程ほどの成功で我慢しておけば下落もそこまで急にならない、という事なのでしょう。いみじくもかつて某政治家が官庁の事業仕分けの時に「2番じゃいけないんですか?2番じゃ?」と怪気炎をあげていましたが、まさに2番でいいんだ、という答えになります。この結論は個人的には非常に感銘を受けました。

 

まとめ

まとめますと、非常にわかりやすい世界史読み物だと思います。私のような世界史初学者にはもちろんのこと、政治や外交を学びたい方にとっても世界のパワーバランスのうねりを理解する上で有用な書籍だと感じました。

 

評価 ☆☆☆☆

2020/04/26

「覇権」で読み解けば世界史がわかる

神野正史 祥伝社 2016年09月02日
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脳は鍛えられる!(内容は総花的)―『脳を最適化するブレインフィットネス完全ガイド』著:アルバロ・フェルナンデス+エルコノン・ゴールドバーグ+パスカル・マイケロン

 

本の概要

米国の脳科学リサーチ会社関係者とニューヨーク大学の脳医学教授らが編纂した、脳の可能性とその鍛錬に関しての本。

 

 

感想

タイトルにも記したが、私は非常に総花的に感じた。換言すれば、広く浅く。

その為か、私にとっては未知の内容が余りなく、やや凡庸に感じた。

 

本書の内容は端的に言えば、『脳は鍛えられる』という一文に尽きる。私が若い頃、脳細胞の増殖は20代でピークを経てあとは減る一方(しかも不可逆的)、従い脳の能力も応じて低下してゆく、そしてそれは仕方のない事だ、と喧伝されてきた。

 

現在の研究では、そのような低下してゆく脳の能力を向上できるという。方法はさまざまで、運動で鍛える、コンピュータゲームで鍛える、食事で調整する、はたまた社会的なつながりを強化する等々の方法が提案されている。

 

エクササイズの定義は参考になる

なかでもなるほどと思ったのは、エクササイズの強度の閾値について、脳に有用な運動的エクササイズのポイントは『心拍数と呼吸数』(P.125)が上がることと述べている。つまり『近所まで楽しみながら歩く』だけでは不十分という。この譬えはわかりやすい。つまり負荷がかかって初めて”効く”ということだ。とは言え、同箇所でウォーキングだけでもポジティブな効果があることが述べられている。はい、これからはウォーキングよりややきつめにエクササイズします笑。

 

めざせ夢のぽっくり死

もう一つ示唆的であったのは、認知症に関する記述。

エクササイズにより認知症の発症は先延ばしにできるという。とは言え脳細胞の死滅傾向は不可逆的である(脳の能力とは違って)。その先延ばしが意味することは、『認知力が高いまま生きることができる割り増し時間を買い、認知症を抱えて生きる時間を短くする』(P.169)と表現している。これはまさに日本人が望んでやまない「ぽっくり死」ではないか!日本は長寿リスクが叫ばれるが、家族に迷惑をかけないように生きようとするのならば、お金を用意して介護施設に入るよりきちんと脳を鍛えた方が良いのではないか、と思ってしまった。

 

売らんかな主義にも見える

他方、いまいちだなーと読中感じたのは、どうにもマーケティング臭がプンプンするということ。どの製品が一番脳に効くとか、空軍向けに納入した製品は非常に脳の認知力向上に役立ったとか、少なくとも全9章中2章でこのような話になっていた。そうした製品の能力を信じないのではないが、仮に製品に依存しないと脳力が上がらないとしたら、それってタイトルの『脳を最適化する』という表現にもとるのでは、と感じた。まあそもそも筆者がブレインフィットネス業界で起業しているCEOなのだからポジショントークになるのは当然でしょうが。。。

 

まとめ

纏めると、この本はビギナーのが脳の可能性を広く浅く学ぶ上では適していると感じた。特に中高年など認知能力や記憶力の低下が気になり始めた方向けの本だと思う。ただ、脳についての本は私ならば『脳を鍛えるには運動しかない』(著:ジョン・レイティ)を激押しします。

lifewithbooks.hateblo.jp

この本の方が論のフォーカスが運動に定まっており効果についてもはっきりしているように感じるためです。

 

すべての方のコンディションがよりよくならんことを。

 

評価 ☆☆

2020/04/25

脳を最適化する

アルバロ・フェルナンデス/エルコノン・ゴールドバーグ CCCメディアハウス 2015年10月21日
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自己啓発本ではなく、エンターテイメント小説として-『夢をかなえるゾウ』著:水野敬也

夢をかなえるゾウ

夢をかなえるゾウ

 

 

今から10年ちょっと前、猛烈に流行った本。

今読み返してみても実際に面白い。

 

ご存じの通りあらすじは、ヒンドゥー教の神ガネーシャがある日突然、イケてない「僕」の前に現れ、成功するための手ほどきを教えてくれるというもの。

インドの神様であるのに何故か関西弁をしゃべるところ、そしてまた神様とは言い難ほどの俗っぽさ(半人であるから人間っぽくてもおかしくないか)が無理難題を吹っかけつつ、自分が育てた(と称する)過去の偉人達のエピソードを開陳しつつ、「僕」を変えていく。

 

中学生でも読める!テンポ良い語り口!

本書の良いところは何といってもその平易な語り口。テンポよいストーリー展開の中で日本人の道徳観になじむ成功律が語られていく。

また、この成功の要素が1セクションに1つずつ提示され、読者も同じ道をたどることができる。

 

因みに以下に挙げると;靴をみがく、コンビニでおつりを募金する、食事を腹八分におさえる、人の欲しがっているものを先取りする、会った人を笑わせる、トイレ掃除をする、まっすぐ帰宅する、その日頑張れた自分をホメる、一日何かをやめてみる、決めたことを続けるための環境を作る、毎朝前進鏡を見て身なりを整える、自分が一番得なことを人に聞く、自分の苦手なことを人に聞く、夢を楽しく想像する、運が良いと口に出して言う、ただでもらう、明日の準備をする、身近にいる大事な人を喜ばせる、だれか一人のいいところを見つけてホメる、人の長所を盗む、求人情報誌を見る、お参りに行く、人気店に入り人気の理由を観察する、プレゼントして驚かせる、やらずに後悔していることを今日から始める、サービスとして夢を語る、人の成功をサポートする、応募する、毎日感謝する。多いな。

 

体系だってなくてOK!だって小説だもん

読者の中には、内容がちゃちいとか、自己啓発本としては体系だっていないと批判する人がいるかもしれない。しかし本作は、寧ろ自己啓発系エンターテイメント小説として読むべきであり、読者めいめいが必要なところから必要な要素を感じ取ればよいのだと思う。

 

勿論、本書で語られるファクターは成功に必要なものも多かろう。ただし人生の妙は、筆者があげたファクターをすべてこなしたとしても決して成功できるわけでもなく、ファクターのバランスも作用するし、時の運もある。つまり絶対はない。

その為か、本書でも終盤にかけては成功する要素というより、納得が得られる人生の送り方へフォーカスが移ってきているように感じた。

 

まとめ

纏めますと、日々の生活に欝々としているかた、こんなはずじゃなかったと思いつつ生きている方、最近いいことがないなあとぼんやりしてしまう方は読んで読みてもいいと思います。少しすっきりするんじゃないでしょうか。

 

評価 ☆☆☆

2020/04/21

夢をかなえるゾウ

水野敬也 飛鳥新社 2007年08月
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たまたま私にはマッチしませんでした泣ー『レイクサイド』著:東野圭吾

レイクサイド (文春文庫)

レイクサイド (文春文庫)

  • 作者:東野 圭吾
  • 発売日: 2006/02/10
  • メディア: 文庫
 

 

皆さんにとって小説とは?

皆さんはどのようなときに小説を読まれるのでしょうか。

出張などの移動中に息抜きにという方、小難しい本が好きでその合間に抜き程度にという方、はたまた小説が大好きで読書と言えば小説という方。色々かと思います。

 

私はビジネス書や歴史書などが好みですが、読み続けると気分が重苦しくなってくるので、そんな時は休憩がてら小説を読みます。言葉を替えると、小説に求めているものはエンタテイメント性です。

 

東野作品はエンタテイメント性たっぷり!

その点、これまで読んだ東野作品は私のニーズにピッタリでした。「容疑者xの献身」をはじめとしたガリレオシリーズは理系の知識を使ったトリックの数々を楽しむことができます。かと思えば「マスカレード・ホテル」シリーズでは家政婦は見た的な業界あるあるをのぞき見するような楽しさがあります。

lifewithbooks.hateblo.jp

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期待したような作風ではなかった!

ですので、今回の東野作品も面白いに違いないと、期待のハードルが爆上がりしていたことは否めません。私自身のハードルの高さと作品がマッチしなかっただけなのです。ただ、私が本作品がいまいちだと感じてしまったのはそれだけが原因でもありません。

 

なぜ自分にとってはいまいちだったのか考えてみました。

先ずは不倫を扱っているという点。

筆者には落ち度はありません。ただ、ここ数年、日本では不倫不倫と他人事にうるさく有りませんか? 作品のメインのモチーフに不倫が取り上げられていると分かった冒頭から、思わず食傷感を感じてしまったのです。うわあ、またかという既視感を感じてしましました。

 

もう一つは、中学受験を扱っている点。

私も中学受験をしました。もう40年弱も前のことですが。でも塾通いとか合宿とか、当時もありました。そして今、子供が高校受験に取り組んでいます。周囲にはおしゃれな母親はたくさんいます。

そう、私にとって、舞台設定が妙に生々しいのです。

 

これらの要素が混合され、私自身の現実逃避が阻害されました笑 私から見て評価が厳しくなってしまったのはそのためです。ごめんなさい、小説に非はありません。

 

ただ、もちろん読んでいてつまらないわけではありません。舞台設定などからしてもう私の頭の中は土曜ワイド劇場的に頭の中で綺麗にシーンが描けたくらいです。映像が目に浮かぶような小説でした。

中学受験なんかしてこなかったし、という学生の方や社会人の方、子供は公立中学で十分というご家庭の方、清廉な塾で堅実に子供たちの教育に注力されている方、小学校の先生方などはある意味別世界の話として楽しめるかもしれません笑。

 

評価 ☆☆

2020/04/16

レイクサイド

東野 圭吾 文藝春秋 2006年02月10日
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衝撃的な、欺瞞に満ちた米国の歴史―『オリバー・ストーンの「アメリカ史」講義』著:オリバー・ストーン&ピーター・カズニック

 

本の概要

ドロッドロの米国史を第25代大統領マッキンリー(1897-1901)~第44代大統領オバマ(2009-2017)まで辿ったもの。なお筆者の一人、オリバー・ストーンは『プラトーン』でアカデミー賞を受賞した映画監督。

 

感想

アメリカ、素敵な国!一度は行ってみたいところ!ウォール街、ハリウッド、自由の女神、ジャズの国、NBA、グランドキャニオン等々。とにかく楽しそうなもの沢山!しかしながら歴史を紐解くと、そこには今の今まで連綿と続く、帝国主義的欺瞞の数々。寧ろ目を背けたくなるような事実の連続。

 

欺瞞の数々

ざっと挙げてもこれだけの欺瞞がある。

メイン号爆発を勝手に攻撃とみなしてけしかけた米西戦争。中立と標榜しつつイギリスとフランスに融資し、戦後は敗戦国のドイツに賠償金の融資を行う周到さ(他方、大戦中はドイツ系アメリカ人は憎しみの対象となる)。民族自決を標榜しつつロシアや中南米内政干渉を繰り返す1920年代。理想主義的なウォレス副大統領を追いやり、凡庸なトルーマンを傀儡的に君臨させた第二次世界大戦期間。日系米国人への謂われなき差別と収容所送り。不要であった原爆の投下。共産主義国への共感なき反発とCIAを使ったアジア地域への内政干渉。未だに一度も公式謝罪がないベトナム戦争軍縮を提案したゴルバチョフを裏切りSDIを進め軍拡を推進したブッシュ。他国の国勢を考慮せず、反発分子(タリバン、、ノエリガ将軍、サダム・フセイン等々)を支援し、都合が悪くなると捕えて殺した90年代以降。・・・溜息がでます。

 

凡庸な大統領は担ぎ上げられただけか?

かつてハンナ・アーレントは、ナチスドイツで大量殺戮を行ったかどで起訴されたアイヒマンをして悪の凡庸さと呼んだ。本作で出てくる大統領も、似たような凡庸さを感じる。途轍もないほどの共感力の無さ。

陰謀論じゃないかと揶揄されるかもしれないが、そのような凡庸な政治的リーダーを支配している影の存在を疑わずにはいられない。少なくとも、作中でも言及されている通り、軍需産業の隆盛と冷戦以降更に軍需費が増加していることを鑑みれば、関連性は類推できる。

 

まとめ

最後に。私はこの本を、歴史に興味のある方すべてに強くお勧めしたい。米国が汚いと言いたいのではない。米国にも本作が生まれるくらいの良心は依然として残っている。

寧ろ私は、米国の歴史を我が事として教訓的に捉えるべきだと感じている。いかに人がプロパガンダに流されやすいか、いかに人が短絡的に判断を下すか、いかに人が他人の立場に立てず人を見下すか。少なくとも私は、これらすべてを自分の中に見出すことができる。21世紀になっても未だに人は精神的に進歩していないのではないかと思わずにはいられない一冊。

 

評価 ☆☆☆☆☆

2020/04/23

〔ダイジェスト版〕オリバー・ストーンの「アメリカ史」講義

オリバー・ストーン/ピーター・カズニック 早川書房 2016年07月22日
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