海外オヤジの読書ノート

中年おじさんによる半歩遅れた読書感想文です。今年はセカンドライフとキリスト教について考えたく!

銀行今昔物語を有意義に読むには?―『巨大銀行の構造』著:津田和夫


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 今は昔の30年前の銀行業界。そんな業界本を読むことに果たして意味があるのか。

 

 2020年の現在からすると本作はおよそ30年前の作品。実際の内容は出版よりも過去の話であろうから、内容はおおよそ1980年代程度、よくて1990年初頭ということになる。当然ながら現在の銀行業界とは状況が全く異なる。都市銀行が11行に信託銀行が7行もある時代の話。付利する金利も規制されていた時代。現在からは想像ができません。

 

 そんな大昔の書籍を今更再読する必要があるかと言えば、答えは難しい。銀行業界に関連・ゆかり・興味のない方は、本作は文字通り古本以外の何物でもない。しかし、仮にあなたが金融業界に関連する職種である、あるいはそういう業界に身を置きたいということであれば、本作は大いに読む意味があると思います。

 

今があるのは過去が理由

 第一の理由は、歴史です。

 冒頭にも挙げましたが、本作の分析は30年程度前の日本の銀行業界の状況についてです。バブル崩壊前後の日本。リーマンショックはいわんや、ITバブルも911も起こる前の状況です。

 そんな前の話なぞ若い方は想像もできないでしょうが、その想像もできないような過去が現在の業界を作っている。コーポレートファイナンスの覇権をかけての銀行業と証券業の争い、大蔵省の強烈な規制、デリバティブなどの新商品の登場、他行を見ながらの横並び経営と海外進出、狂気の余資運用の果ての土地バブルとその崩壊。

 現在は持ち株会社が銀行も証券も保有し、官僚への接待も(表向きは)消え、競争も国内外に開かれています。自己資本比率会計基準もBasel3やIFRSに収斂しつつあります。

 こうした今を知るための過去。父親や祖父くらいの時代の話を読むことで今の業界の所以を知ることができます。

 

業界の様子は変わった。カルチャーはどうか?

 もう一つの理由。それは変わらぬメンタリティを学ぶよい機会であるということ。

 確かに本作の舞台はひと昔もふた昔も前の銀行業界です。今とはかなり異なっているといえますところが、ちょうど本作が舞台とする1980年1990年代の若手たちは、今や企業の中心的立場となっている筈です。つまり、そのメンタリティは未だ業界で脈々と息づいている可能性は大いにあり得る。皆さんのまわりの銀行の方を見てみてください。

 

 本部での『数多くの根回しや、事務レベルでの会議も頻繁に持たれることになる(中略)非効率が、エリートの中堅層を拾うと虚脱に追い込む(P.70)』状況。インフレ率を下回る預金金利を自覚的に(致し方なくも)顧客に供与する(P.156)会社ファーストのメンタリティ。人事評価は「協調性が最も重視され、強い意見具申や採算意識は時としてマイナス評価となる(P.132)」こと。誤解を恐れずに言えばショーワな感じ(私も昭和生まれですが)。

 

 こうした文化を頭ごなしに否定するつもりもありません。根回しだってポジティブに捉えればやる人にとっては良い勉強です。だって役員だって忙しいし。しかし、このようなことがまかり通っている理由といえば、お偉方の不勉強だったり現状の非効率へ声をあげないこと、あるいは声をあげたものを排除するというムラ意識ではないでしょうか。

 私は自分のキャリアで証券と銀行にお世話になりましたが、銀行は現在でもこうした前例主義、ルール主義、オーナーシップの欠如などの機能不全を起こしている方が多く存在するように思えます(私の経験した狭い範囲だけであることを願います)。

 

おわりに

 ふう。すこし熱くなりました。

 もともとは本棚整理で再読したものです。何でこんな古い本をとっておいたのか我ながら少し疑問だったのですが、再読して、改めて過去の事象が非常によくまとまっていると感じました。また、筆者の銀行の説明(社会的な役割、信用創造、国際収支とか)などの経済学的な説明が平易でそこも良い。

 

 関連しない方にはつまらない昔話かもしれませんが、業界に興味や知り合いがある、関わりたいと思っている方は一読して損はないと思いました。

 

評価 ☆☆☆

2021/01/29

糖質制限の良さを明快に説明。読み返してより理解したいコンディショニング名著―『ケトン体が人類を救う 糖質制限でなぜ健康になるのか』著:宗田哲男


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概要

 産婦人科医宗田哲男氏による著作。糖質制限を推奨し、ケトン体エンジンを活用することを主張。自身の糖尿病の経験、妊娠糖尿病への対応、また学会との摩擦等、これらを背景に本書を上梓してことにより説得力のある仕上がりとなっている。

 

感想

 衝撃を受けました。

 これまで関連本で糖質制限や断食(あるいは粗食)について読んできました。しかし、帯に短し襷に長しで、どれも安全性について疑問が残っていました。

 本作では特にケトン体エンジンの理論的根拠が説明してあり、糖質制限が意外と安全であることが理解出来ました。

 

糖質制限というより、原初的には脂質が人間のメインエンジン

 いわゆるブドウ糖エンジンともう一つのエンジンであるケトン体エンジン。後者は体に貯蔵される脂質が燃焼した時にケトン体が発生することから名づけられたものだと思います。体内の糖質を使い切り、ストックした脂質が使われている状態です。赤ちゃんが糖質エンジンを使わず(使えず)ケトン体の値が高いことからも、本来こちらのエンジンがメインであり、糖質は体が未だうまくコントロールできない異物的な扱いであることを示唆しているように思えます。

 また第7章では、推論と断りながらも、妊娠糖尿病について、現代の過剰な糖質摂取は人類について想定外であったとしています(P.194)。母親が持つ皮下脂肪が胎児の栄養の供給源であることからも、脂質・たんぱく質こそが人体に必要な栄養で、特に妊婦にとっては糖質は避けるべきだとしています。

 つまり、生まれながらに人間は糖質を(機構として)必要としなくても生きられる生物なのです。糖質をとることで血糖値の上下が起こり(血糖値スパイク)体で負担であることを考えるならば、脂質やたんぱく質をメインで取る方が、まだ体への負担がないと言えます。

 

世の中・学会の常識に立ち向かう姿勢に共感

 もう一つの素晴らしい点は、医学会の旧弊ぶりを明らかにしているところです。妊娠糖尿病になると、体内から分泌されるインシュリンの効き目が下がります(血糖値が下がらなくなる)。それなのに医学の一般常識はさらにインシュリンを投与し血糖を下げようとする(下がりませんが)。これにおかしいと声をあげたことは素晴らしい。宗田氏は学会発表で轟轟の非難を浴びたようですが、私からすれば製薬業界と結託した医学会の暴挙にしか見えません。

 栄養学についても厳しい批判を展開しています。炭水化物とはそもそも糖質+食物繊維であるものの、食品成分表には炭水化物に含まれる糖質量が記載されていないそうです。作中では「お米」と「きのこ」が例に上がっています。どちらも同じ炭水化物に分類されるものの糖質量は大きく異なるはずです。でも栄養学上は同一の扱いしかしないとのことです。こんな基準に従ってバランスを考えたダイエットを行ってもいびつな指導しかできません。

 更にコレステロール値コントロールについてもしっかりと指摘しています。実は、コレステロールの値は体にバランシング機能が備わっているそうです(下記参照)。にもかかわらずコレステロール降下剤が投与されていることに意味はあるのか。いな、悪影響はないのかと言えると思います。これもまた、製薬業界と医学会の結託以外の何物でもないと思えてしまいます。

 

肉ばっかり生活は本当に大丈夫かは、やっぱり疑問

 色々褒めましたが少々疑問もあります。糖質を制限してたんぱく質を多くとる(つまり肉食ばっか)のは問題ないのか。未だに疑問です。私が心配しているのは高脂血症や高コレステロールとそれに起因する血管系の障害です。これについては第6章に以下のような記述があります。

「体内のコレステロールは、食事で作られる割合が20%で、残りの80%は肝臓で合成されていることは従来から分かっていたことでした。コレステロールをあまり摂取しなければ、体内合成が増えますし、沢山摂取すれば合成分が減る、とういバランスができているのです(P.156)」

 マジか。これを信じるならば、肉食オンリーでも問題ないということです。でもまだ疑問は解けません。では、いわゆる血管系の病気(心筋梗塞狭心症)はなぜ起こるのでしょうか。その原因についてある程度理解しない限りは糖質をシャットアウトしてたんぱく質や脂質オンリーの生活には移行しがたいと思いました。私の場合、経験的には肉食が余りに増えると便通が滞りうんこが臭くなります。つまり個人的にはやはりバランスの妙があるのではないかと考えて日々食事をしています。

 

おわりに

 私は30代の前半で色々病気をしましたが、その都度思うのは医者ではなくて自分がどう自分をコントロールするかということです。健康や体への自己決定の考えです。

 本書以外にもいろいろ本を読みましたが、この本は自分がどう体をコントロールするべきかを改めて思い返させてくれました。

 勿論、この本ですべてが解決するわけではありませんが、非常に示唆に富む本ではあり、今後の身体や健康への勉強への励みになりました。とりわけ糖質がそこまで必要ではないということ理論的に明示してくれた功績は大きいと思いました。

 

評価 ☆☆☆☆☆

2021/01/22

驚きの展開の四部構成ミステリ。ミステリ好き・本好きは是非読んでみて!―『三月は深き紅の淵を』著:恩田睦


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 いやあ、悔しい。なんというか、すごい。

 いや、すごい面白いというのでもない(失礼しました!)。なんというのだろうか、そう、展開がまるで予想もしない方向へ進んだことに心底驚いた。

 

 これまで幾つかの恩田作品を読んできました。私にとって、彼女の作品のイメージは青春爽やか系なのですが、ミステリー作家とみなした方がしっくりするかもしれない、そう思わせるほどの驚きの作品でした。

 

あらすじ

 幻の作品で私家版である『三月は深き紅の淵を』という書籍を巡る物語。4部構成になっていますが、それぞれの章で『三月は深き紅の淵を』を追い求めるストーリーが展開されます。

 

各章構成

 極力ネタバレしないように粗く描きますが、

第一章・・・サラリーマン、金満家のお屋敷に潜む『三月は深き紅の淵を』を探す。

第二章・・・女編集者、『三月は深き紅の淵を』の起源を探す。

第三章・・・二人の美人高校生篠田美佐緒と林祥子が死んだ理由とは?

第四章・・・どうぞお読みください。

 

特徴

 読後に感心しきりになってしまった理由は、何といっても構成です。

 皆さん、劇中劇とかってご存じですか。近頃のドラマでもたまにありますよね。お話の中でニュースのワイドショーが繰り広げられていたり、ドラマの中で文字通り劇団がドラマを演じたり。

 本作は本なので、類似のことを表現しようとすると本中本というのでしょうか(あぁ、済みません、言ってしまった)。その展開があっと言わせるものでありました。これを見ただけでは意味不明でしょうがい、読んだらああこれの事ねえとわかるかもしれません。

 

ちょっぴりすてきな発想:個人図書館

 あんまり書くとこれから読む方の楽しみを奪ってしまうので、代わりに、作品中にあった素敵な発想を書いてみたいと思います。まずは第一章から。題して「生まれて死ぬまで個人図書館」

「生まれて初めて開いた絵本から順番に、自分が今まで読んできた本を全部見られたらなあ、って思うことありませんか? 雑誌やなんかも全部。そうそうこの時期はSFに凝ってたなあとか、このころはクラスの連中がみんな星新一読んでたなあとか。それが一つの本棚に順番に収まっていてぱらぱらめくれたら。そういう図書館が一人一人にあって、他人の読書ヒストリーを除くっていうのも面白いだろうなあ。」(P.90)

 ちょっといいなあと思いました。たまにAmazonの購入履歴をみて、ああそういう本読んだなとかなります。また、書評ブログをやる理由も、過去読んだものを形に残しておくという点であるとすれば発想は似ています。しかし、すべての本というと、大抵の男子の場合かつて買ったエロ本とかも並んじゃうんだから(私はもっと恥ずかしい本も買ったものですが。。。)、他人に覗かれたらやっぱり恥ずかしいでしょうねえ笑。

 

ちょっぴりすてきな発想:本のなる木

 もう一つだけ。続いて第二章から。本のなる木を夢想する女性編集者の一言です。

「今でも人間が小説を書いていることが信じられない時があるあるもんね。どこかに小説のなる木かなんかがあって、みんなそこからむしり取って来ているんじゃないかなって思うよ。この稼業を選んでずいぶん経つけど、未だにだまされてるような気がする。いつかきっと『ほらーやっぱりそうだったんだー』って、その現場を押さえてやろうと思っているのよね」(P.162)

 なんか夢のある可愛らしい発想じゃありませんか。赤ちゃんはコウノトリが運んでくる的な。しかし、赤ちゃんだって、生々しい人間の性の営みの末に生まれるのと同様、きっと小説も、作家さんの頭をかきむしるほどの呻吟の末に出来上がるのでしょうね。でも素敵な発想です。フランスポストモダンとかドイツ観念論のなる木があるとすれば恐ろしくイカつい木に生えているのだろうなあとか想像しちゃいました。

 

終わりに

 まとめますと、本作は人によって好き嫌いがある作品かもしれません。特に第四部は物語と独白が重なっていて、結構わかりにくかったらかです。でも、私は第四部があったからこそ、さすが恩田氏、という想いを抱きました。

 でも本好きな人には是非読んでほしいなあと思いました。本や読書が主題ですし、作家・編集者・読者とそれぞれ本に対する見方や想いが描かれており、そういう視点もまた興味深いものでした。

 

評価 ☆☆☆☆

2021/01/23

児童書を英語で楽しもう!勇敢な女の子と巨人が英国を救う!―『The BFG』著:ROALD DAHL


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作品について

 イギリスの児童作家として有名なRoald Dahl氏の作品。

 孤児院で暮らすSophieは、ある晩巨人の国に誘拐されてしまう。誘拐した巨人は、実は、気が優しく人間の言葉がちょっとわかるBFG(Big Friendly Giant)。聞くと、巨人の国ではBFG以外は人間の子供を餌にして食べているという。他の巨人たちはまたぞろ英国の子供たちを借りに行く計画をしているという。SophieとBFGは協力して子供達を巨人の手から救おうとするが。。。

 

雑談ですが。。。

 みなさんは幽霊とかUFOとか、出会ったことありますか。

 私は、霊感や運はないけど、ちょっとした霊体験とUFOは経験したことがあります。幽霊というか、飼い猫が死んだとき、夜中に猫の叫び声で目が覚めました。翌朝歩いて5分ほど離れたご近所から電話が入り、オタクの猫ちゃんみたいなのが死んでいると連絡が。迎えに行くとうちの猫が車にひかれて死んでいた。夜中の声は絶対うちの猫のだと確信しました。

 UFOは、高校の物理の時間にクラス全員で目撃しました。先生のことをなめ切った学校だったが、ある一人が「UFOだ」と叫びだし、わらわらと生徒が窓際に集まりだす。いつもの学級崩壊かよと私も窓の外を見ると、確かに光の点が2つ3つ。止まったままだったが急に鋭角に上とか左とかに直線を描くように動くのを見ました。

 見間違いとか錯覚とかいろいろ言われたら否定のしようもないけど、上に挙げた異世界との出会いは(まあかわいいものですが)そこまで恐怖はありませんでした。

 

 導入が長くて済みません。

 本作は人間と巨人という異物との邂逅がモチーフとなっています。私の異物との邂逅はしょうもないものでしたが、主人公のSophieも恐怖などはありません。子どもの話ですからねえ。でもやはり、子供というのは柔軟というのか、他者を受け入れる素地が沢山残っているのですね。

 

Sophieの素直さがかわいい

 さて本作の素敵なところはやはりSophieとBFGとのかわいいやり取り。ネタバレで申し訳ないのですが、私が一番好きなのは、人食い巨人の横暴を止めるためにSophieとBFGがうんうん考えて、結局エリザベス女王に話せば何とかなる、と二人で納得してしまうところ。その単純さが可愛らしいじゃないですか!この作品はそうしたあどけなさの残る子供の描写がとても素敵です。

 

英語:内容は易しいが英語は造語にやや癖あり

 子どもが素直なら英語も素直だろうと思うと、英語はちょっと癖があります。BFGの設定は英語を独学した巨人(というか巨人は義務教育とか学校がない)という設定なので、微妙におかしい英語を喋るのです。英語版を読むとそこに読みづらさを感じます。例えば人間はHuman Beanとか(人間Human Beingと言いたいのですが、巨人からしたら人間は餌なので、さしずめ人間豆とでも訳すのでしょうか)。ヘリコプターはBellypopperとか。

 また複数の語をくっつけた合成語が頻繁に使われているのですが、これも慣れないと読みづらい。頻出するのはFleshlumpeater。これは他の巨人の名前です。分解すればFlesh(肉)/Lump(塊)/Eater(食べる人)なので、意訳すれば丸呑み巨人とかでしょうか。

 単語もやや難しめに感じましたが、日本語教育を受けていないうちの娘に言わせると小学生3年くらいで普通に読めたそうです。。。はい、あなたに追いつけるようにおっさん頑張りますよ。

 

垣間見える英国の歴史とか伝統とか

 もう一つ書いておきたいのは、児童書でもすでに見え隠れするイギリスの歴史や文化。チャールズ1世の首を切った剣が王宮に残っているとか(BFGが食事に使うという・・・)、BFGが最後に文字を習い、最終的にチャールズ・ディケンスとシェークスピアを読破するとか。また、上にも書いたように、困ったことは女王に相談というSophieの思考も、国民からの人気の高さに裏打ちされているのだろうとか思いました。

 

おわりに

 本棚整理中につき、中学生の娘がかつて読んだものを処分する前におっさんが読んだものです。200ページ程度と分量や内容の易しさからリーディングの練習には中々良いのではないでしょうか。私は一日40分程かけて毎日15ページくらい読んで14/日くらいで読了でした。所々で知らない単語を拾って単語力増強に努めました。英語に自信がない人などはNetflixなどで先に映画を見てから挑むと少しハードルが下がるかもしれません。

 

 

評価 ☆☆☆

2021/1/22

 

The BFG

The BFG

  • 作者:Dahl, Roald
  • 発売日: 2007/08/16
  • メディア: ペーパーバック
 

 

Roald Dahlの作品は以前も読みました。こちらはさらに薄い本でした。内容はすっかり子供向け。

ある意味サイコな小学生とその家族の話(英語の童話)―『GEORGE’S MARVELLOUS MEDICINE』著:ROALD DAHL - 海外オヤジの読書ノート

アンリ、シャルル、アンリ、シャルル、たまにルイ。。。名前が混乱する! 英国との百年戦争がメインのヴァロア朝を描く―『ヴァロア朝 フランス王朝史2』著:佐藤賢一

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概要

 フランスの中世の歴史、なかでもヴァロア朝を扱っています。

 教科書的な事実の羅列ではなくお話であるので、楽しく読めます。他方で、当時のヨーロッパを共通して起こった事象(例えばペストとか、あるいは宗教改革とか)に関しては多くを触れていません。ですので、ビギナー向けの新書というより、あくまでフランス史を集中して知りたいという方にお勧めのややマニアックな作品だと思います。

 

扱うのは主に百年戦争とイタリア戦争の時代

 世界史特訓中につき購入しました。

 前作カペー朝に続き、ヴァロア朝でも王様たちの功績をヒストリカルに扱います。これを縦糸と例えますと、並行するようにおこった百年戦争とイタリア戦争をメインに描いており、本作の代表的なモチーフになっています。その中にはオルレアン奪還でヒロインとなるジャンヌ・ダルクユグノー戦争の象徴とされるサン・パルテルミの虐殺なども出てきます。

 

人情味豊かな表現は流石

 本作の特徴といえばやはり人物描写。相変わらず、人を語るのが上手です。対英戦争である百年戦争の最中、イギリスから逃げ出した捕虜に代わり、「なら私が!」と自ら捕虜となることを申し出るジャン2世。シャルル9世の母として隠然たる力を持ち、美人局兼スパイ隊である「遊撃騎兵隊」(女官集団)を組織したカトリーヌ・ドゥ・メディシスなどです。そんな気になる人物をAmazonで検索すると大抵この佐藤氏が別の作品を書いてたりします笑。はい今度読みますよ。

 

 他方、ややわかりづらいと感じるのは、当時の時代背景である反ハプスブルグの動きであるとか、オランダ独立の動きとか、宗教改革であるとか、いわば横糸と捉えられるような事象については多くを語っていないため、世界史全体のうねりについては奥深さを欠くように感じられました。王様の喧嘩のような話が続くこともあり、読んでいて冗長である(長くて終わらない!!)という感覚にも陥りました。

 

おわりに

 前作のカペー朝から引き続き読みましたが、何故か、前作と比べ大分苦戦しました。何しろ王様の名前が同じ過ぎて、自分を見失います笑 殆どの王様がアンリ、シャルル、アンリ、シャルル、たまにルイ、そしてアンリ、シャルル、アンリ、シャルル。。。いや、もちろん、フィリップ、ジャンもあるけど。そうそう、フランソワもあるけど。。。

 とにかく、通読には資料集必須!あるいはフランスの地図や系図が横にあると数倍読みやすいと感じました。

 

 Kindleで購入しましたが、ページの行き来が面倒ですので、折角系図や地図を載せてくれてもジャンプしてわざわざ戻りませんよね。紙の本はこういう内容の時には強さを発揮すると感じました。

 

評価 ☆☆☆

2021/01/21

対話による「考えること」の回復、そして「体験としての哲学」の導入―『考えるとはどういうことか 0歳から100歳までの哲学入門』著:梶谷真司


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ヒトコト概要

東京大学大学院総合文化研究科教授による、哲学対話のススメ。

 

感想

 語り口はやさしいのですが、まとめるとなるとなかなか難しい作品です。プロローグとエピローグを何度も読んでどうまとめようか呻吟しました。

 

 で、結局筆者が言いたいのは、対話を通じて「考える」という体験をしよう!そして、もっと気軽に日常で「考える」ということをしていこう、だって考えることで我々は自由になるし、自由だからこそ我々自身の人生に責任が持てるのだ、とこんな感じの事を言っているのだと思います。

 

社会は人から思考と自由を奪う?

 「自由な発言や思考は制限されている。」

 筆者はこのように考えているようです。でも、日本社会のことを揶揄しているのではありません。確かに日本では顕著ですが、どの社会でも、自由な思考は組織のルールや文化的制約によって大なり小なり制限を受けていると思います。

 親や先生がいう「よく考えなさい」という発話。あるいは同僚や上司がいう「そんなの普通に考えばわかるだろ!(怒)」。こうした発言は、一定の答えを暗に強要し、むしろ自由に考える行為とは対極の要求をしています。

 こうした表現そのものに罪はないと思いますが、現実的には人を考えることから遠ざける一因になっていることも確かではないでしょうか。

 

 この作品で筆者が主張するのは、このような考えさせない力が作用しがちな現代社会で、「考える」という行為を我々の日常に取り戻すこと、であると思います。くわえて「考える」行為を導入する「対話」を通じて、哲学を、知識としての哲学から体験としての哲学へと変態させることであると思います。

 

対話の威力

 さてこのような「考える」ことを可能にする「対話」とは何か。それは「問い、考え、語り、聞く」ことです。対話の中にはこの四つの要素が含まれており、これを十全な形で実行することで我々は考えるということを取り戻すないしは身に付けることができる、というものです。

 

 問いの設定と考えることは確かに単独でできます。語ることも独白なら一人でも可能。でも相手が出てくることで途端に思考が必要になる。他者だ。老人か子供かあなたのパートナーや友人、いずれにせよ相手のレベルに合わせて話す必要がある。また疑問について答えなければならない。さらに言えばその疑問に自分の至らなさや不明瞭な部分が分かったりもする。つまり、対話をへることで思考は深化してゆきます。

 

 このような対話のプロセスを複数人のグループで、なるべく異世代をあつめて、目的なく行うというのです。人の数だけ考えや反応は違うので、こうした対話の進め方は斬新ですね。筆者はあくまで「目的なく」というのですが、その有用性から、何か他のことを目的に(ビジネスとか)使えそうな雰囲気もありますね笑

 

哲学対話のやり方について

 哲学対話についてのテクニカルな話題については作品中で語られているので割愛します。できるだけ輪になって座るとか、相手を否定しないとか、結果を求めないとか、そうしたことは対話、ひいては考えることを成立させかつより深化させるためのTipsにすぎません。本書の分量にして半分程度が対話のテクニックやそれが導入される背景や理由についても語られています。しかし、それらは筆者がいう「考えること」の回復作業を支えるツールにすぎません。要点はあくまで「考える」です。

 

おわりに

 私が本作に出会ったのは、息子の高校入試の過去問の中ででした。

 哲学という言葉が表題にありますが、哲学・思想に関するとういうより、生き方に類する本であるという印象を受けました。そして、哲学対話というのをしてみたくなりました!一緒にやる人がいないけど。

 読者層という観点から言えば、中学生から大人まで(タイトル通り!)多くの方が楽しめる本です。また、筆者は哲学の一般的な印象(意味不明、難解、役に立たない?)を十分に分かったうえで書いていますので、哲学ファンや思想好きな人なら筆者の語る哲学のイメージを「あるある」として楽しむこともできます。それもまた一興。

 

 

評価 ☆☆☆☆

2021/01/16

クリスマス前夜のちょっといい話―『クリスマス・カロル』著:C・ディケンズ 訳:村岡花子


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 一年で一番のお祝いの時期といえば?

 日本ではやはり正月だと思います。では米国では?Thanksgivingとかありえますね。ではイギリスやフランスでは?

 西洋諸国であれば、やっぱりクリスマスだと思います。なんてったって、キリストの誕生日です。

 

 本作は、19世紀の英国で、あるクリスマスの前夜に超シブチンのスクルージが超常現象を通じ回心し、シブチンをやめイイ人になる、というお話です。

 私が書くと安っぽいあらすじですが本当にその通りなのです。で、イギリスの文豪ディケンズの作です、一応。

 

 ボリュームもなく半日以内に読める量ですし、内容については割愛します。読んだ方が早いです。ここでは本作を読んで気になった点について書き記したいと思います。

 

克服されない英国の格差社会

 まず思ったのは、英国庶民の貧しさ。

 以前ディケンズの『大いなる遺産』を読みました。そこでも思いましたが、イギリスという国は資本主義そして共産主義発祥の地でありますが、持つものと持たざる者との差が大きい国であるとの印象を受けました。

 本作中でも、主人公スクルージに雇われるクラチット氏は、安い俸給で雇われ生活は貧しい。その他の町の風景も概して暗い。こうした描写があり、つと民衆の苦しさや貧しさを感じずにはいられません。

 

 また、当時の富裕層(成金)のケチさも感じられます。スクルージは製造業ではなく所謂第三次産業っぽい職業(貿易商?)に見受けますのでいわゆる資本家ではないかもしれません。しかし、ディケンズが表したかったのは主人公に代表される金持ちのエートスなのかもしれません。もちろんそれは、言わずもがな、ドケチ・不寛容です。

 

 宗教改革英国国教会の設立により中途半端に終わった感のある英国がこうした状況にとどまる一方、よりドラスティックなピューリタンやカルバン派が米国に渡り職に邁進し、米国文化として社会奉仕や慈善などのPhilanthropyが行き渡るのと好対照をなします。

 

英語について少々

 それと英語について。この村岡花子氏の訳は何と1952年のものらしいのですが、今から約70年前の訳であることを考慮すると相当こなれていて違和感のない訳だなあと妙に感心しました(あくまで70年前であることを想像して、です)。拙い譬えで申し訳ないのですが、昔の洋楽ロック、1980年代のMetallica(米)とか1970’のThin Lizzy(英)を今聞いても、お、結構いけてんじゃん、と感じた感覚です(すみません、お若い皆さんは感じませんね)

 

 あと、英語学習にも使えるかもしれません。Kindle版は数百円で頒布されていますし、厚さもないので原書通読をてみてはいいかがでしょうか(当方試していないのに無責任で申し訳ないですが笑)。私も時間と機会があればやってみたいと思います。

A Christmas Carol: Classic Edition (Illustrated)

A Christmas Carol: Classic Edition (Illustrated)

  • 作者:Dickens, Charles
  • 発売日: 2021/01/14
  • メディア: ペーパーバック
 

 

 

おわりに

 まとめますと、読んでみて損はない作品だと思います。著者ディケンスがまずもって有名ですし、クリスマスも毎年きます。私が読んだきっかけも、とある会で友人が本作を引き合いにだしてスピーチをしていたのを目のあたりにしたからです。読んでなくて、スピーチの筋がちょっとわからず悔しくて笑 つまりそれだけ引用される機会が多いですし、スピーチのみならず、きっと他の文学作品の下敷きにされることも多いのではないかと想像します。

 

評価 ☆☆☆

2021/01/17

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