海外オヤジの読書ノート

中年おじさんによる半歩遅れた読書感想文です。今年はセカンドライフとキリスト教について考えたく!

2021年読書を振り返る(印象に残った10選)

f:id:gokutubushi55:20220101005832p:plain

 おかげ様で、当方のブログも開設2周年を迎え、そして2021年もつつがなく終えることが出来ました(年内にUPをもくろみましたが失敗しました)。昨年、本サイトに訪問して下さった皆さまに改めて御礼申し上げます。ありがとうございます。

 

 さて2021年も前年に続きコロナ一色でありました。
 そんな中ですが、私は一年の殆どを自宅勤務で過ごし、外出もあまりせず自省的・内省的な生活に終始しました。おかげで体重も3kgほど増え、心身共におっさんらしさが増した一年でもありました。

 

2021年の読書は大体140冊

 さて、2021年の読書は大体140冊でした。正確言うと144冊らしいのですが計算に自信がありません。。。

f:id:gokutubushi55:20220101005837p:plain

 

 昨年も似たようなことを書いたのですが、私にとっての読書の位置づけは、仕事・健康・教育資金・老後資金で行き詰まっている自分の「巻き返し」のためものです。ところが前年に続き2021年も、歴史系など自分の娯楽のための読書がかなり多かったと思います。

 とはいえ、2021年も多くの素敵な本に出合うことができました。ということで、2021年印象に残った作品を10ほど列挙したいと思います。

 

仕事術関連

1.「PRINCIPLES

 すでに40代後半にして万年平社員。自分が正当に評価されないことを上司のせい、組織構造のせい、と常日頃からルサンチマンを燃やし気味の私ですが、本作を読み、自分のダメさ加減を認知しないと前へは進めない、と改めて強く実感。

 昇進はどうでもいいのですが、マーケットのニーズと自分の能力・志向を勘案しつつ、謙虚にになり、そして自らを振り返りたいと思いました。一年に一回は読み返したい。

 

lifewithbooks.hateblo.jp

 

2.「なぜ人と組織は変われないのか

 上記PRINCIPLESより、一層具体的に自分の弱みを省察したい方にお勧め。数年に一度読んで自分をチェックしてみるんですが、色々と自分の偏見があぶりだされました。今回自分を省察して発見した偏見は「自分の努力は評価されて当然」(評価されないから給料上がってないんじゃないの?)、「人は自分の忙しさを他人が分かって当然」(分かってないから色々依頼メールが来るんでしょ?)、「自分は理解されて当然」(理解されていないから行き違いが減らないんじゃない?)、などと、イタい中年そのまんまの自分の偏見があぶりされました。軽薄な表現になってちょっと嫌なんですが、やっぱりコニュニケーションなんですよね、仕事の完成度を高めるのは。

 

lifewithbooks.hateblo.jp


ノンフィクション系 

3.「一下級将校の見た帝国陸軍

 組織の腐り方に感銘すら覚えてしまう作品でした。思考停止、と言っても良いでしょうか。役職(役割)とは権限、責任そして能力から構成され、またこの役職(役割)が組織のピラミッドを作っているというのが我論なのですが、権限を行使しない、責任はあるのに能力がないなど重篤な欠陥のあるピースが組織ピラミッドに散見されれば、それは根腐りした柱のように脆くなるのは当然。戦記であり文化論でもありますが、組織論としても読める秀逸な作品でした。
 

lifewithbooks.hateblo.jp

 

4.「もの食う人々

 旅行は言うまでもなく、通勤すらままならない一年でしたので、読書で海外へ思いを馳せました。ちょっと古めの本ですが、自分で咀嚼した考え・言葉が力強い旅行記。この広い世界で、一生会わないであろう人々が懸命に生を営んでいるんだという当たり前の事実に気づかされます。
 

 

lifewithbooks.hateblo.jp

 

5.「ワクチン不要論

 一部の方からは不謹慎とのそしりを受けかねませんが、無批判的な受容は何であれ本当に怖いと考えております。公共の福祉に反しない限りでの自己決定権の行使という意味では意義深かったと考えております。ちなみに、うちの家族は全員コロナのワクチンは接種しました。最近ニュースになっている子宮頸がんワクチンについてもよくよく調べて子供たちへの接種を検討したいと思います。

lifewithbooks.hateblo.jp

 

6.「炭水化物が人類を滅ぼす

 私は炭水化物も取りますし、コメもパンも食べます。ただ、本書を読んだ後、炭水化物をすんなり摂取できるほど人間は進化していないのかなあと思いました。それほど人類にとっては炭水化物は「新しい」食べ物であり、摂取のし過ぎが病気や不調を引き起こすということが歴史と進化の話から明らかになります。非常に壮大なスケールで人間を語る作品でしたが納得感の高い一冊でした。

lifewithbooks.hateblo.jp


文芸作品

7.「Wonder

 娘の本棚から拝借した本でしたが、予想外に面白かったものです。先天性口蓋裂症の男の子の自己陶冶物語。主人公の男の子や周囲の子供たちの精神的成長もさることながら、親からしたらどんな子供だって贈り物であるという最後の一文で涙目。スピンオフも一冊ありますがそちらもなかなか面白かったです。

 

lifewithbooks.hateblo.jp

 

8.「わたしを離さないで

 私、世間が面白い面白いというものについては必死に背を向ける天邪鬼ですが、古書で激安で売っていたため本作をとうとう購入しました。が、驚愕、の一言。自分的には2021年で一番二番のどちらかは固い作品でした。人は生まれれば死ぬというのは理解できますが、殺されるために生まれてきたとしたらどうなのか。家畜などの動物倫理までの射程をも含むいわば「問題」作であったと思います。

lifewithbooks.hateblo.jp

 

9.「マチネの終わりに

 こちらも私の食わず嫌いの結果鑑賞してこなかった平野氏の作品。著者とは同い年ですが、素直にこの方凄いです、と認められるくらい年を取りました。ジャンルとしては端的には純愛小説ですが、それ以上に濃厚な後味を感じました。あと、ギター経験者としては感情移入しやすかったからか、非常に印象に残りました。

 

lifewithbooks.hateblo.jp

 

10. アガサ3作品

 アガサ・クリスティ―もどういうわけか読んだことはありませんでした。ただ私が子どものころからテレビドラマが吹き替えでやっていたし、今でもやはり高い評価を受けています。という事はやはり本物か(気付くの遅すぎ)。たまたま友人から本を借りてきた娘にこっそり感謝。あなたが面白いと感想を述べなければ未だ手にはしていなかったでしょう。お金がなくて日本語訳は買えませんが、安売りしている英語版でも十分、十二分に面白いです。

 

lifewithbooks.hateblo.jp

lifewithbooks.hateblo.jp

lifewithbooks.hateblo.jp

 

おわりに

 といことで、僭越ながら2021年の10選でした。歴史歴史言う割に、歴史の本が一冊もないのはご愛敬。

 さて新年、明けてしまいましたね。今年も皆さまにとって良い年であること、そして良い本に巡り合えることを祈念しております。私は今年も、皆さまより三歩、四歩ほど遅れた読書?に邁進し、皆さまがご存知ないような作品をシェアして参りたいと思います。

 

それでは皆様、良いお年をお迎えくださいませ。


七人に七様の人生と七様の決断 - 『物語のおわり』著:湊かなえ

人によって考えや感じ方は違う。
この至極当然な考えが本作のテーマだと思います。


f:id:gokutubushi55:20211229024558j:image

 

未完の小説『空の彼方』をめぐる7人の物語。この未完の小説が北海道を旅する旅人たちの間を行き交う。そしてその終わり方をそれぞれ7人が考えるというもの。

 

面白いのは、やはり同じものを見ているのに人によって全く受け取り方が異なるというもの。また舞台が北海道ということもあり、旅行欲をそそります。

 

ちなみに私は、自転車で北海道を旅行する綾子が主人公の「ワインディングロード」が一番好みです。綾子が付き合っていた剛生という男のディスりが結構なくずっぷりで圧巻。また私事ですが大学生の時に自転車旅行で鹿児島や屋久島に行ったことがあり、読んでいて懐かしくなり、その点も評価が高い笑。

 

他方いまいちと感じてしまうのは、技巧が過ぎているというのか、物語が上手く出来過ぎており、最終章で終わりが読めてしまう感覚がありました。読み進めてきて、ああそういうことかと推測できるのも楽しい反面、そのパターンねと若干の既視感を覚えたのも事実。説明のし過ぎが即ネタバレに繋がりかねないので詳細は述べませんが、以前読んだ同氏による「花の鎖」という作品を私は思い出しました。

 

おわりに

少し疲れた年末の折、積読本の中でお気に入りの湊氏の本を手繰って読んだものです。パンチは弱めですが、普通に面白い人生小説?でした笑 人生は選択の連続ですが、そんな選択に対峙する個々人の真摯さに元気がもらえる作品だと思います。カバー裏が作中作『空の彼方』の原稿になっているという遊び心も素敵です。


f:id:gokutubushi55:20211229024617j:image

評価 ☆☆☆

2021/12/28

キリスト教についての興味が中程度(?)以上の方は読んで損しません ― 『なんでもわかるキリスト教大事典』著:八木谷涼子

キリスト教って何なのか?知っているようでいまいちよくわからない。ちょっと勉強してみたい。そんな方は結構いるのではないでしょうか。

私の場合、興味の始まりはユダヤ陰謀論(笑)。そして世界史で十字軍やビザンチン、そして米国史を学ぶうちにキリスト教についても興味がわき、さらに文学作品を渉猟するにあたり、どうもキリスト教内部でもいろいろあるらしい、と気づきはじめました。

キリスト教を包括的に学ぶのに何かいい本はないかとネットで調べていたら、とあるサイトでお勧めにあったのがこちらの作品。


f:id:gokutubushi55:20211226003425j:image

新教・旧教ひっくるめて、すべて説明!

で、読んでみましたが、非常にわかりやすかったこの人は一体何者か?とむしろ筆者の素性が気になるくらいよくご存じで。

特徴

一番の特徴は宗派についての概要を具体的かつ簡潔かつ網羅的にまとめている部分。具体的に書きますと、東方正教会ローマ・カトリックルター派聖公会(アングリカン)、改革派・長老派、改宗派・組合派、バブテスト、メソジスト、ペンテコステ派、メノナイト系、クエーカー、ユニテリアン・ユニバーサリスト、救世軍福音派、その他いわゆる新宗教に分類されるような宗派も。筆致も柔らかく、詳しい友達に教えてもらっているかのようなフランクな語りで、直観的なわかりやすさがあります。いろいろ違いがあり、また色々互いにいがみ合ったりもしてるらしく、そういうこともきちんと教えてもらえます。

そのほか、典礼の服装のイラスト(どうやらご自身が書いていらっしゃる様子)やキリスト教の習慣についてとか、シスターや牧師さんとのインタビューとか、なかなかお目にかかれない方々の経験談も非常に興味深いものでした。

ややトリビアめなお話

読んでいてへー、と感じたのはオートミールの話。よくある”Quaker Oats”は別にクエーカーが創始者であったわけではなく、「純正品にふさわしい」として、いわばイメージとして採用されたとのこと。つまりクエーカーって、誠実・純正・嘘偽りのないとか、そういうイメージなのでしょうね。

 

 

また東方正教会の記述にこんなのがありました。

「地域や民族全体、あるいは家族の宗教という側面があるため、自然体の信者が多い。信仰とは頭だけのものではなく、生活そのものともとらえ、完成を駆使して神に向き合う。(P.49)」

わたしはこれを読んでいて、なんだかアイヌのことを思い出しました。あまねく自然を調和的に司る神。神がリズムを刻むことで人間も生かされている、というようなホーリスティックなテイストがキリスト教にもあるのかもしれないとふと感じた次第です。

 

lifewithbooks.hateblo.jp

 

おわりに

以前世界史の講義で、世界人口の約3割がキリスト教徒という話を聞きました。世の中グローバル化だとかコミュニケーションとか色々言う割に、世界の人々のバックグラウンドについての理解が足りないんじゃないかと自省しております。
実質的無宗教の方が太宗である日本にあっては他宗教の理解はそこまで必要ではないかもしれません。しかし、私たちもひとたび日本国外へ踏み出せば、文学作品でも多くの宗教的バックグラウンドをもとに書かれた作品、また実際に多くの宗教者・宗教家に出会うことになります。
そうした自分とは異なるものの理解への一歩として本書は非常なる有用さを持っていると断言できる本でありました。

 

評価     ☆☆☆☆

2021/12/25

 

 

 

株屋が業務説明を英語でするときには重宝しそう ― 『英和和英デリバティブ証券化用語辞典』著:可児滋


f:id:gokutubushi55:20211221005358j:image

 

基礎的で実直な辞書・辞典だと思います。

 

デリバティブってホントによく分からなくて、私もいろいろと本を読んできましたが、本書は非常に基礎的な部類に属すると思います。

デリバティブというより、株式市場や先物市場の用語、テクニカル分析の用語なども掲載しており、その点は非常に幅広いと感じております。「ナンピン買い」とか「現引き」とか株屋が日常で使っている業界用語など、確かに英語で何というかよくわかりませんでした。

また、古代ギリシアの哲学者「タレス」の逸話からデリバティブ(証券分析)の用語にギリシア文字(αとかβとか)を使うようになったとのことです。ちょっとした学びでした。

ja.wikipedia.org

 

評価 ☆☆☆

2021/12/15

 

こどもの無垢をいつくしむ大人向け小説 - 『赤毛のアン - 赤毛のアン・シリーズ1』著:モンゴメリ 訳:村岡花子

f:id:gokutubushi55:20211219032355j:image

 

私が子供のころから有名だった本作。どうも女子向けというイメージもあり、子供のころから手を伸ばさずにおりました。長じて後、数年前にローティーンになった娘に読書習慣をつけるべく本作を与えてみたのですが、「つまらない」「眠くなる」との反応。そこで初めて私も読んでみたのでしたが、確かにすごい面白いわけではない。サスペンスはないし、アンの自意識過剰感もなんというか「やかましい」。一通り読んだのですが、特に大きな印象を持つこともない読書体験となりました。

 

最近、少し英米文学を読む機会があり、興味がわき本作も再読してみる気になったのですが、前回と大分印象が違いました。なぜだかわからないけど。美しい自然の描写はもとより、アンの無邪気さ、みずみずしさ、子供らしさが非常に印象的でした。

 

男児を所望するも手違いで女の子を引き受けることになったのは、育て親たるマリラとマシュー。彼らがアンにひかれていくのもその無邪気さや子供らしさなんだろうなと確信しています。自分の子育て経験を振り返っても、あれせい・これせい・あれはすんな・こうしなさい、と親としていろいろ喧しく躾けるくせに、かわいいなあと思うのは、外食するときに何でも好きなものを頼んでいいよと言うと「じゃあ、うな重」とか言って予期せぬ出費で親を困らせたり、懸命に何かに打ち込み着の身着のままでベッドで寝込んでしまっている寝顔を見たときだったりします。立派な大人になってほしいと思いつつ、まだまだ自分のそばでかわいい子供でいてほしいとちょっぴり願ったり。親ってなかなか勝手なものです。

アンがグリーン・ゲイブルスを離れクイーン学院への進学の希望が見えてきたころ、マリラとマシューが一抹の寂しさを吐露しますが、親目線で読んでいる私はすでに涙目。

「なんてまあ、アン、あんたはおおきくなったんだろう!」とマリラ信じられないようだったが、その言葉の後からため息を漏らした。アンの背が伸びたことにマリラは妙に、なごりおしい気持がした。とにかく、自分がかわいがったこどもが消えてしまい、そのかわりに、この背が高い、十五にもなる、まじめな目つきの娘が思索的な顔をし、小さな頭を誇らしかにそらして立っているのだ」(位置No.5780)

「アンのことを考えていたんですよ。あんまり大きな娘になったものでね ―― それにたぶん、こんどの冬にはここにはいなくなるでしょうからね。あの子がいないと、わたしはさびしくてやりきれないと思うんですよ」(位置No.5780)

 

普段辛辣な批評家であるマリラがこう寂しさを吐露するところに、彼女の寂しさが一層伝わります。

 

おわりに

正直にいうと、世間で得ている評判ほど本作が万人受けするとは到底思えない、そう感じています。自然が美しい?で何? アンみたいな子がいたらイジメにあいそう・・・私が子供だったらそう感じるに違いないと思います。

その点では、本作は大人向けの本、大人が「こども」の無垢をいつくしむ作品なのではないかと感じた次第です。文豪マーク・トウェインが本作を絶賛し、その文句がそのまま宣伝文句になったそうですが、むべなるかな、と思います。

そういえば訳者の村岡花子さんの半生が『アンと花子』というドラマになっていましたが、あちらも気になっております。どこかで安く見られないかな。

 

評価 ☆☆☆☆

2021/12/18

密度の濃い世界史本。というか教科書! ― 『詳説世界史研究』編:木村靖二、岸本美緒、小松久雄

かつて息子の高校受験用に契約したスタディサプリ。コンテンツ見放題なことをいいことに、一念発起して大学受験用の世界史の講義を聞き始めて早一年。猿人の発生から現代までを4回通して視聴し、思いました。耳だけでなく目でしっかり文字で追って内容を読みたい!と。

そして、色々探してこちらをチョイスしました。こちら通読し終えて、これで世界史5回転達成!さて、私はどこへ向かっているのでしょうか。。。。

 


f:id:gokutubushi55:20211216023546j:image

 

長年、勉強しなかったことにちょっとしたコンプレックスを感じていた世界史。40代後半にもなって、酔狂なことにこの世界史に手を出しました。

でも、知れば知るほど面白い。これほんと。今ある現代はすべて過去の結果であるわけで過去を辿ることで現在が理解できると考えております。

 

ひとことでいえば

で、本書ですが、めちゃくちゃ教科書感満載です。というか教科書にしか見えません(実際教科書がベースだそうです)。だからか、興味があって購入し読み始めたものの、疲れてたりすると眠気が襲ってきます。そういう本です。

 

いいとこ、わるいとこ

さて本書の強みですが、何といっても網羅性だと思います。世界史の端から端までしっかり勉強できます。特に密度が濃く感じらるのは19, 20, 21世紀を扱う最後の3章。国民国家エスニシティ、グローバリゼーション等にも言及があり、読みごたえがありました。

 

また、所々で挿入されているコラムは歴史的事象を違った切り口から紹介しており興味をそそるものが多かったと思います。

例えば倭寇について。倭寇という名とは裏腹に中国人の参画も多かったそうですが、その多くは自国での生活苦・困窮が原因であったとか。なんて書かれると中国の往時の政治体制にも興味が出ませんか? またフォードがT型で成功した後にGMに追い抜かれた理由の一つが、GMレバレッジを利かせて(つまり借金して)多くのモデルチェンジを仕掛ける一方、ユダヤ人嫌いのフォードは銀行からの借り入れを拒み、失速することになったとか。なんて書かれると米国の金融史や陰謀論にも興味が湧きませんか? ま私だけかもしれません笑

 

反対にイマイチだったのは、やはり文字なので、注意力を維持するのはなかなか難しいということ。ゴシックで強調とかはありますが、塾や映像授業のように「ここ大事」とかの注意喚起は当然ないので、これだけのものを集中して読むのには苦労します。まあ本がいけないわけではないのですが。

 

結論

ということで、世界史をヘビーに勉強してみたいという方にはお勧めできます。私は別途子どものために契約した「スタディサプリ」の世界史を見つつ、資料集として帝国書院「最新世界史図説 タペストリー」も横に置いて読みました。

 

まあこれだけ読んで偉いわけでも褒めてもらえるわけでもありませんが、自己満足度はかなり高いです。おかげで家庭内でのウンチク垂れが増えたと思うのですが、家族の皆が受け流すのが上手(というか聞いていない)なので助かっております。

もし皆さんが世界史を高校時に学ばれていないのであれば、是非この機会に世界史を学ばれてはいかがでしょうか。そこにはまさに「世界」が広がっています!

 

評価 ☆☆☆☆

2021/12/12

金融系ユダヤ陰謀論(やや不満がのこりました) ―『金融の仕組みは全部ロスチャイルドが作った』著:安部芳裕

いわゆるユダヤ陰謀論をコンパクトにまとめたものです。タイトルにもある通り金融の内容に比重が重いのが特徴だと思います。

 


f:id:gokutubushi55:20211213032345j:image

 

お金の仕組みについては面白い意見かと

ユダヤ陰謀論の系譜にあたる本だと思いますが、これまでの陰謀論と比べて新味が感じられるのは通貨論に踏み込んでいる部分でしょうか。

 

米国で通貨発行権を持つFRBという私企業(!)から米国政府へ貸し出されたドル。通貨発行にかかる費用と実際貸し出される価値との差異はFRBの儲けになります(シニョリッジ)。ドルがWW2以降基軸通貨として世界に流通するのですから、流通に応じてその差益は膨大になります。しかも金本位の停止を経て金の裏付けがなくなても流通している現在、ドルの発行・管理にかかる差益は膨大であることが想像されます。

 

とまあ、ここまでは陰謀論では見かけるお話です。

 

本作で面白かったのは、上記に加え、信用創造金利についての議論を展開していることです(P.47-P.54)。中銀から市中銀行が金を借り、その金を企業に貸し、その企業が預金する(ないし一部使う)などして他の銀行に記帳された預金は更に別の企業に貸し出され、、、というように金は流通します。筆者は、この貸金と返済という連綿たる取引関係を数えられる程度の閉じた関係図で例示し「利子分のお金は椅子取りゲームのように誰かから奪わねば支払えません」(P.50)と述べます。つまり、当初の元本は変わらないのに、市中に流通し貸与された金を巡って各経済主体が金利分を埋め合わせるために、その余剰分をどうにかして他人から奪わないといけないと。

 

世の中はここまで単純ではないと思いますが、付利された貸金の返済とは、常に我々が追加的な付加価値を創造し、我々を常なる競争に追い立てているのかなあ、と感じました。別の言い方をすれば、発券銀行からの発券・貸与・付利という通貨システムは、交換の手段としての通貨以上に必然的に我々を競争社会に巻きこんでると主張しているようにも見えました(うーん、うまく説明できてませんね。ごめんなさい)。

 

著者は、地域通貨ユダヤ対抗のための代替手段として考えているようです。単純に交換機能と貯蔵機能に特化したようなイメージでしょうか。私も多少電子マネーとか使っていますが、確かに通貨や貨幣そのものが現在揺らぎ始めているような気もします。その点では改めて通貨や貨幣について学びたくなりました。

 

詰めが甘いかもしれません

他方本作には、物足りないというか全般的に調べが甘い点が散見されました。

例えばウェッブサイトの引用。確かに半恒久的組織や団体のサイトは読者が再確認できるという点で信用に値しますが、筆者は個人のサイト?も数点引用されています。例えば『歴史情報研究所』というサイトが引用されていましたが今はリンク切れ。そしてこうしたサイトの内容は大抵二次情報であるはずなので初出の一次情報にあたって確認までしてくださると信憑性も高くなると思いました。

更に、概ねユダヤ=他民族を地獄の底に陥れようとしている、という捉え方をしているように感じました。しかし、『ユダヤ人とユダヤ教』(著:市川裕)という本などを読むと、ユダヤにもいろいろあり、真摯なユダヤの営みの一端もまた知ることができます。

lifewithbooks.hateblo.jp

とすれば、もし悪いユダヤ人がいるとして、むしろそのメンタリティの理由について考えてほしかったなあと思います。先祖代々からのルサンチマンなのか。他民族を恨むよう教育されてきたからなのか。あるいは、このグローバル社会の中でそうした悪意が権威を持ちつつ存続することは可能なのか等々です。

 

おわりに

一部の人間が世の中を自分たちの良いようにコントロールするという陰謀論

陰謀論と言わずとも、自分たちの思うように政治や金をコントロールしようとする勢力が居るというのは常識であろうと思います。ロビー活動、政治献金軍産複合体等々はマスコミ報道でも一般的な言説であると思います。

 

そんな中では「まことしやか」な背景説明や理由付けこそが陰謀論の肝(!?)ではないかと思いました。それがなくては陰謀論も単なるセンセーショナルなデマゴギーであり、それこそフェイクニュースの廉で国によってはお縄頂戴になるやもしれない代物に成り下がってしまいます。

 

都市伝説のように、あるかもしれないけど確認のしようがない、そんな論拠をもとに陰謀論が展開されれば、陰謀論は一つの文学ジャンルになりうる、あるいはより正確な歴史研究の第一歩になりうるのではないかと感じました(ただ、911取材に関わった元NHKの長谷川氏の不審死はちょっとぞっとしましたが)。

 

評価 ☆☆

2021/12/09

 

海外オヤジの読書ノート - にほんブログ村
PVアクセスランキング にほんブログ村