海外オヤジの読書ノート

中年おじさんによる半歩遅れた読書感想文です。今年はセカンドライフとキリスト教について考えたく!

2020-01-01から1年間の記事一覧

静謐な文体に心を打たれる―『ブラフマンの埋葬』著:小川洋子

筆者と作品について 各種文学賞を総ナメにしている小川洋子氏。『妊娠カレンダー』で芥川賞、『博士の愛した数式』で読売文学賞および本屋大賞を受賞、後に映画化。本作『ブラフマンの埋葬』は泉鏡花文学賞を受賞。 感想 引き込まれるように読んでしまった。…

クラシック作品をモチーフにした可愛らしい作品集―『アーモンド入りチョコレートのワルツ』著:森絵都

筆者と作品について 第20回路傍の石文学賞受賞作。直木賞作家である森絵都さんの作品は中学生を主人公にしたものが多く、ローティーンの読書の入り口には最適だと思います。私も当時小学六年であった娘のために購入しました。 lifewithbooks.hateblo.jp life…

ある意味サイコな小学生とその家族の話(英語の童話)―『GEORGE’S MARVELLOUS MEDICINE』著:ROALD DAHL

概要 映画『チャーリーとチョコレート工場』や『BFG』の原作者としても有名な20世紀のイギリスの児童文芸作家Ronald Dahlの作品。本作は小学校低学年程度向けと思われるが、単語はともあれ文法が平易であり、英語学習の入り口にも適していると思われる。 感…

雑誌連載の総まとめ!?次の飲み会でしゃべってみたいウンチク―『帳簿の世界史』著:ジェイコブ・ソール 訳:村井章子

感想 表紙の西洋画が印象的。何か面白い話でも聞けるかと期待して、ジャケ買い。 結論は、そこそこ面白かった。世界史を会計という切り口で見るものですが、個人的には中途半端という印象です(すみません)。世界史の本という言うには狭く、また会計(帳簿…

揺れる香港の昨日。本格ミステリに描かれる香港社会体制とノスタルジー―『13・67』著:陳浩基 訳:天野健太郎

島田正彦賞受賞作品『世界を売った男』を読んで、香港ミステリに非常に興味が沸いてしまい、次作である本作『13・67』を購入しました。 lifewithbooks.hateblo.jp 感想 名前が中華系の名前であり、ややとっつきにくいところを除けば、ミステリの謎解きと…

たまにはほっと息抜きしたいあなたに、自由すぎる中学生のお話を!―『宇宙のみなしご』著:森絵都

概要 直木賞作家にしてティーン小説では大家と言っても過言ではない森絵都氏の作品。本作で野間児童文芸章を受賞。今回もさっぱりとした性格の女子中学生が主人公。 感想 中学生が主人公の小説、というと意外に思い浮かばない。私が中学生の頃だと、『僕らの…

往時のスパイ活動の様子が生々しい。考えるヒントも多い―『GHQ 知られざる諜報戦 新版ウィロビー回顧録』著:C.A.ウィロビー 監修:延禎

概要 第二次世界大戦終了後、マッカーサー率いるGHQの下で、G2と呼ばれる諜報活動を担うグループを統括したウィロビー氏による回顧録。史実と異なる回想については監修者の延禎氏が丁寧にコメントを入れている。なお延禎氏は本文中にもある通りGHQの別チーム…

使えるプレゼンテク!でも初心者は伝える内容を煮詰めてから使ってね―『図解 テレビに学ぶ 中学生にもわかるように伝える技術』著:天野暢子

その分かりやす過ぎる表紙と題名から、つい書店で手に取って購入してしまいました。結論から言うと、なかなか参考になったのですが、表紙の印象に反し、プレゼン上級者向けの本であると感じました。 使える技術は確かに満載 この本では、多くの『伝わる』技…

書くことによるカタルシス、あるいは共通感覚の発露―『土佐日記(全)』著:紀貫之 編:西山秀人

感想 ―「男もすなる日記といふものを、女もしてみむとてするなり」 この、あまりに有名な一節から始まる土佐日記。多くの人が教科書や受験勉強の最中で出会ったことがあるのではないでしょうか。 本作品は平安時代の歌人紀貫之が女性のふりをして書いた日記…

おい本部、そのノルマ、一体どうやって計算してるんだ(怒)!―『不況を勝ち抜く予算管理ガイドブック』著:芳野剛士

感想 私は怒っている。一体あの予算は何なのだ?出来るわけがない。ぜんたい、本部は予算策定の時はあれを出せこれを出せとかうるさく言うくせに、ひとたび予算を下ろしてくると、その予算の作りについては全く説明しようとしない。そのくせ自分たちの方がエ…

砂糖を切り口に西洋近現代史の暗部を晒す―『砂糖の世界史』著:川北稔

概要 砂糖という「世界商品」の歴史を紐解くことにより、近現代史を大陸横断的に俯瞰し、砂糖の文化的インパクト(特に民衆へのそれ)を分析する。ジュニア文庫からの出版も、非常に内容が濃くかつ簡潔、大人が読んでも遜色のない内容です。なお筆者は大阪大…

色々なタイプの恩田作品が楽しめる―『図書室の海』編:恩田陸

概要 各種文芸賞を多数受賞している恩田陸氏による短編集。月刊誌でのアンソロジー特集に所収されたものをはじめ、これまでの作品のスピンオフ的なもの、ファンタジー物などなど、書きぶりが異なる作品が所収されており、筆者の違った一面を見られる仕上がり…

1000年前のナンパ日記!?でも音読がおすすめ―『伊勢物語』編:坂口由美子

中三の息子に伊勢物語くらい読んどけよと、一緒に勉強する為にと買ってみたのですが、先ずは親が読んでなきゃ強いこと言えねえな、と音読もしつつ読んでみました。 メインは色男 在原業平のナンパ物語 100篇以上の小話からなる伊勢物語ですが、メインのお話…

ヤンキー上がりのベトナムとの”対決”。再読したら意外と面白い!―『ベトナム怪人紀行』著:ゲッツ板谷

本の概要 立川出身の元不良上がりのゲッツ板谷氏による『怪人紀行』シリーズの一冊。東南アジアへ旅行に出かけ”怪人”に会いに行くという言わばぶっつけロケ的紀行文。戦争カメラマンの鴨志田穣氏が同行し夫婦漫才を繰り広げる。挿絵や表紙は鴨志田の元妻であ…

自分の問いの立て方!(自己啓発的、大人向けか)―『東大教授が教える独学勉強法』著:柳川範之

本の概要と筆者について 高校を独学で修め、大検を経て慶応の通信制を独学で(しかもシンガポールで!)修めた著者による独学のススメ。いわゆる効率的に資格試験や受験を切り抜けるものではなく、ライフワーク的な勉強のススメを説くもの。なお著者の柳川氏…

トヨタイズムはこうして生まれた!反米国流+日本流の末に。

概要 元トヨタ自動車副社長にしてカンバン方式の生みの親である大野耐一氏によるトヨタイズム誕生にまつわる自伝的エッセイ。内容は戦後間もない日本が中心であるためやや古く見えるが、エッセイ調であり非常に読みやすい。 感想 トヨタ本、本当に沢山の種類…

アジア発推理小説という新たな世界―『世界を売った男』著:陳浩基

筆者と作品について 台湾で行われる島田荘司推理小説賞の第二回受賞作品であり筆者のデビュー作。筆者の陳浩基氏は香港人で元エンジニア。来歴等についてはいくつかのサイトで見ることができる。 「『人』そのものが一つの謎である」―陳浩基さんブクログ大賞…

前半はやや鼻につくも、後半は熱いインテリジェンス論―『インテリジェンス 武器なき戦争』著:手嶋龍一、佐藤優

本の概要 諜報活動(インテリジェンス)に関する入門書。インテリジェンスの概要と、政治や外交での利用のされ方を実例ととに紹介。対談形式であるため、書きぶりはライトで読みやすい。著者は元NHKワシントン支局長で現在作家の手嶋龍一氏と、元外務省職員…

田中角栄についての資料的価値の高いドキュメンタリ作品―『決定版 私の田中角栄日記』著:佐藤昭子

本の概要 昭和最大の疑獄事案であったロッキード事件で逮捕された田中角栄氏。その秘書を長年に渡り務めた佐藤昭子氏によるドキュメンタリ的作品。自らの日記を紐解きつつ稀代の政治家であった田中角栄氏の素顔を浮かび上がらせる。 感想 当初はロッキード事…

お金ノウハウ小ネタ集(古いけどなかなか骨太)―『得する生活 お金持ちになる人の考え方』著:橘玲

本の概要 士業の肩書がない(と思います)のに異様な位お金と法律に詳しい橘氏の実践的作品。『マネーロンダリング』といった金融小説作品もあるが、今回はノンフィクションで知識を披露。ちなみにWikipediaによると氏は元『宝島30』(すでに廃刊となりまし…

息子「相当エロかったよ。」 オヤジ「まあ、そうかもね」―『ダイイングアイ』著:東野圭吾

概要 バーテンダーの雨村は、ある日勤務後の深夜に何者かに襲われる。そのショックにより過去の記憶を失う。失われた記憶は、自分が起こした交通事故のことであった。その後忽然と現れた謎の女性瑠璃子に溺れつつ、雨村は自分の過去の記憶を取り戻していく。…

米国が操る日本、乗っかる政治家・裁判所・マスコミ―『冤罪 田中角栄とロッキード事件の真相』著:石井一

本の概要 ロッキード事件で日本の政治の表舞台から去ることを余儀なくされた、元内閣総理大臣 田中角栄。希代の天才政治家であった田中は本当に悪かったのか?実際の罪状はどのようであったのか?否、田中は米国に、そして仲間のやっかみによって葬られたの…

一緒に居るだけが友達ではない!―『きみの友だち』著:重松清

本の概要 交通事故で松葉杖なしに歩けない恵美と病気がちな由香。人気者のブンのもとに現れるデキメンのモト。彼らの周囲で変化する人間関係。ちょっとしたことで友人が友人でなくなり、相手を完膚なきまでに叩き潰す残酷さ。人間の弱さを優しく描くとともに…

バブル崩壊と銀行再編の歴史を当事者の証言を交えて再構築する―『ドキュメント銀行 金融再編の20年史 1995-2015』著:前田裕之

本の概要 日本経済新聞社編集委員の前田氏による、金融業界再編の20年史をまとめた力作。報道で伝えられた事実にとどまらず、当時の銀行トップの考え・思い、監督省庁の方針や狙い、さらに当時の時代背景や政治家の意向にまで言及。まとまりや咀嚼具合が絶妙…

リズム感のある童話作品。大人にこそ読んでほしい―『注文の多い料理店』著:宮沢賢治

本の概要 岩手県出身の詩人・童話作家、宮沢賢治。37才で逝去するも、死後作品が知られるようになり、現在は国民的作家として位置づけられる。本作品では、東北の方言を重用、自然を擬人的に取り扱い自然と人間との調和的世界観が色濃く出ている。 感想 海外…

達人とは才能ではなく、鍛錬の累積時間量で作られる!―『究極の鍛錬』著:ジョフ・コルヴァン

本の概要 米「フォーチュン」誌主幹のコルヴァン氏によるハイパフォーマーに関するジャーナリスティックな作品。芸術家やスポーツ選手などを例に才能ではなく厳しい鍛錬の累積経験量こそがハイパフォーマーを作ることを実証、このスキームをビジネスの世界に…

4人の決して交われない人々(現象学的にも読める)―『窓の魚』著:西加奈子

本の概要 二つのカップル、ナツとアキオ、そしてハルナとトウヤマが共に温泉へ出かける。そこで起きる事件とは。個性の全く異なる四人が、それぞれの視点から温泉宿での出来事を描く。作者の西加奈子氏は2015年『サラバ!』で直木賞を受賞 感想 西加奈子氏に…

元外交官による国際政治の読み方。でも一般的には陰謀論か―『国難への正体 世界最終戦争へのカウントダウン』著:馬渕睦夫

本の概要 元ウクライナ大使の馬渕氏によるグローバリズムへの警鐘とその背後の存在を明らかにする意欲作。プレジンスキー(政治学者、カーター政権の大統領補佐官、ユダヤ人)、キッシンジャー(政治学者、ニクソン・フォード両政権で指揮、ユダヤ人)、グリ…

肉食が避けられなかったのは欧州の貧しさが原因!?―『肉食の思想』著:鯖田豊之

本の概要 豚やウサギを丸ごと食べるヨーロッパ人が、クジラを食べる日本人をして動物虐待という。このような自家撞着に見える生命観の在り方・考え方の原因を、ヨーロッパの歴史とそこで育まれた文化から読み解く。著者は京都府立大名誉教授で西洋史が専門で…

モダンホラーで恩田氏の力量を思い知る―『球形の季節』著:恩田陸

本の概要 とある東北の町で起こる噂と予言の成就のごとく勃発する事件。4つの高校の合同クラブ「地理研」が噂を追うが、そこにあったのは。。。作者の恩田陸氏は『蜂蜜と遠雷』で直木賞と本屋大賞受賞。『夜のピクニック』でも本屋大賞受賞。広い作風が特徴…

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