大まかには三点、1.欧米主導の資本主義の限界、2.隣国中国との付き合い方とその可能性、3.今後の日本の在り方
著者の中谷巌氏は小渕内閣で経済改革研究会に参画し、ソニーの取締役を務めるなど、所謂新自由主義寄りの人物であったが、その後転向したといわれる方(wikipedia調べ)。
全体的な感想は表題に書いた通り、今後の日本の在り方を考えるスタートポイントとして使える本かな、と感じました。初め部分の資本主義の限界と中国の歴史および文化の可能性については非常にまとまっている印象ですが、最後のパートの今後の日本の在り方についてはややぼんやりとした印象・生煮えの印象があります。
欧米の資本主義は結構えげつない
一章から三章では、大航海時代より欧米では外の世界を志向していたとし、アメリカ大陸の発見、アフリカ大陸の植民地化、中国やインドへの進出を例として挙げています。これらはすべて外の世界から収奪し、その収奪物を自国で資本として消費・利用することを意図している。第二次世界大戦と冷戦を経て今や超大国となり征服するフロンティアがなくなった現代、金融空間を開拓し、世界マネーを米国に還流させようとしたがリーマンショックをはじめとしてこれもストップがかかった。発売時の2012年、資本主義がこれからどこへ向かうのか分からず、方向転換なり新たな潮流が求められると主張。
また失われた20年の反省とそのトリックについても書かれています。戦後の占領時にマッカーサーの洗脳により自虐史観が構築され、以降日本を陰に陽にコントロールしようとし、官僚潰しや市場開放策などを米国が押し付けてきた(ないしは自虐的に日本自らが米国のいう事を守ろうとしてきた)点を指摘しています。このあたりは非常に啓蒙的であり、江藤淳が『閉ざされた言語空間』で述べている日本人観と似ていると思います。
中国との距離の取り方は今後重要になる
中国の分析も面白く読みました。資本主義の正反対に位置する共産国の中国ですが、日本としては隣国。こことどう付き合っていくか。実は中国のこれまでのやり方は、端的に言うと欧米の制服・収奪モデルとは対照的であり、いわば朝貢・連帯モデルとでも言いましょうか、緩い紐帯のようなモデルであったとします。欧米のようにインディアン皆殺しではなく、歯向かわなければその地域は任せる、という弱い支配であった歴史を述べます。中国は、現在市場主義を導入しつつ、他方で国としての規制は強く、この点に欧米へ対抗していくための可能性を見出しているのだと思います。問題がないとは言えない国ですが、そのポテンシャルを買っているように思えます。ちなみに個人的には、その国の支配者層が自国をどう導くかをしっかり考えていることは重要だと思います。日本はこの点ではかなり危機感を覚えますよね。
日本の将来のデザイン・・・んーどうするんだろう?
日本を食い物にしようとする欧米、方や大国への階段を駆け上る中国、挟まれた日本はどうするか。6章~8章では今後の日本企業と日本のあり方を述べていますが、私はいまいち読み取れませんでした。「贈与」の文化の振興や脱原発などが述べられています。一つ一つのアイディアは面白いのですが、突然考えがホーリスティックになり、古き良き日本を礼賛するような書きぶりであると感じてしまいました。
とは言え国の将来ですから、答えが見えていれば簡単です。答えは見えませんし、その答えを考えるのは筆者のみならず、個々の日本人の責務だと思います。その意味でこの本は「俺たちの日本をどうするんだよ」という問題提起として捉えても良いと思いました。
以上纏めますと、この本は日本の将来や政治、国際関係などに興味がある方にはおすすめしたい本です。筆者の述べていることを信じるとして、じゃあ日本は将来どうすればいいのか、という焦燥感や危機感を持ちました。
加えて、資本主義の限界や欧米諸国の目論見を暴く部分は説得力がありますし、中国を対抗馬として持ってきてこれを歴史と自らの体験等を取り混ぜて説明する部分は私には新たな探求分野を教えてもらった気分です。参考文献も巻末に掲載されており、今後の読書に役立てられます。
評価:☆☆☆☆
2019/12/25
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