通読一回ではまだよくわからないところも多いが、まず一番にお伝えしたいのは、その視点の新しさ。
内容は歴史の話です。日本が中国化してゆくというとても議論を呼びそうなタイトルですが、読み進めると筆者の述べることが分かります。加えてこの本の良いところは、この日本を何とかしたいという筆者の思いが感じられるところです。その熱意のようなものと筆者の論の新しさに感動すら覚えました(ただ本文中では非常にシニカルな文体です)。
まず、日本史の新たな見方について大いに驚嘆。戦国時代とは決してかっこいい時代ではなく飢餓をしのぐために殺し合って食べ物を奪い合っていたという見方。また江戸時代の安定はお上とイエとの相互共存の関係である封建制によって支えられ、さらにこれは相当度に社会主義的であった点。加えてこの江戸時代的な安定は、農家の次男三男などを犠牲にして成り立っており、こうした不満分子が明治維新を起こしたという推測。
このような方は高校ではおよそ教わらない話であり、かといっていわゆるトンデモ話ではなく、論拠もあり納得して読める。
次に面白かったのは中国化の話。
中国の特徴を宋の時代の政策を引き合いに出し、頂点の支配者の下での厳しい競争社会としており、これが現在進んでいるグローバリズムや新自由主義が出てくる遥かに古くから中国で実行されていると主張する点。ここから中国化と述べているのはいわば市場万能主義、厳しい競争社会を意味しており、政治体制が共産主義になるというわけではありません。
更にこうした江戸時代的なるもの(封建制・社会主義的)と中国化(苛烈な競争社会)とが明治維新以降の日本近現代史で揺り動いていた点を現代の西暦2000年代の政治状況まで辿って説明していいます。
右翼とか左翼とか知識人とか、どうにも面倒くさくて胡散臭くて、一般の人のほとんどがシニカルに斜に構え距離を置くものが政治だと私は思います。でも筆者はそうした現状も踏まえて我々が今住む日本をどうにかしたいという思いを持っており、歴史という武器を使って本当にこのままでいいの?或いは、大声をあげている両ウイング(右翼左翼)に、君たちほんとは矛盾してね?と問いかけているように思えます。
巻末に文庫本用のあとがきと宇野常寛氏との特別対談が掲載されており、より彼の考えていることがわかると思います。また参考文献も詳細に記されており、今後の読書の参考になります。政治好き・歴史好き・小難しいのが好き・日本の将来が心配な人等々には是非お勧めしたい本です。
評価 ☆☆☆☆☆
2020/01/19
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