淡々とした書きぶりにもじわじわと明らかになる事実に少しずつ恐怖を覚える・・・。
第27回山本周五郎賞受賞の当作品は、「夜警」「死人宿」「柘榴」「万灯」「関守」「満願」の6編からなる短編集です。
交番の部下を亡くした「夜警」、かつての恋人が居る旅館「死人宿」、美しい母と娘たち、そして夫を巡る恐怖「柘榴」、日系商社の資源開発競争をテーマにした「万灯」、とある峠のドライブイン付近で起こる事故に潜む真実「関守」、かつての下宿先で世話になった奥さんが犯した殺人の目的とは・・・「満願」、とどれも楽しく、あっという間に読めました。
中でも「万灯」「満願」「夜警」がお気に入りです。万灯は終盤にかけての急展開にドライブ感を感じました。満願は結末が思いもよらなかった事から、評価が高いです。そして夜警は何でしょうか、交番のお回りさんという題材と、そんな卑近な日常に潜む狂気という視点に新しさを感じました。
他方で、「関守」は途中から展開が読めてしまい、すこし興ざめしました笑。
全体的には楽しく読めました。短いストーリ集ですが、それぞれ全く違った舞台で飽きずに読めますし、かつミステリーの風味も効いており次の展開を期待しながら熱中して読めました。文体も妙に饒舌だったり詩的で独特でもなく、実に淡々と率直で誠実な書きぶりに好感が持てました。
小説は読んで仕事ができるようになるというわけではないし、駄作を読むととても時間を無駄にした気になります。この作品は読んだ時間はしっかり楽しめるし、時間の無駄にはならなかったと感じました。
評価 ☆☆☆☆
2020/02/08
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