海外オヤジの読書ノート

中年おじさんによる半歩遅れた読書感想文です。今年はセカンドライフとキリスト教について考えたく!

エクソシストは自己免疫疾患だった!?『脳に棲む悪魔』著:スザンナ・キャハラン

脳に棲む魔物

脳に棲む魔物

 

 

悪魔にとりつかれる映画エクソシスト。実は類似の例が世界各地にあるそうです。ひきつけを起こす、手を奇妙な形に曲げる白目をむく、妄想にかられる・かと思うと正常に戻る。そしてこうした急激な変化と正常との間と行き交う。

 

実は私の近しい人間(義弟の彼女)にこのような症状が出ました。物忘れが増え始め、ぼーっとしていることが増え、そしてある日突然意味不明なことをしゃべりはじめ、ひきつけを起こし、卒倒しました。錯乱の末階段から転げ落ち、前歯を一本折り、そのまま救急搬送されました。その後意識を戻ったものの彼氏のことも家族のことも認知せず、うめき声をあげるだけ。

 

たまたま起きたのが旧暦のお盆の時期であったため(華僑の人たちはこれをゴーストシーズンといい、死者と生者と世界がつながると言われている)、家族は”この子は悪魔にとりつかれた”と思ったそうです。私がお見舞いに行ったときにも、虚ろな目でブルブルと震え、私のことも認識せず、私のことも見ているのか見ていないのかもわからずウーっとうなるばかりでした。

 

本書は、上記のような症状を示す抗NMDA受容体自己免疫性脳炎という極めて珍しい病気にかかり、幸運にも生還した女性による、世界でも症例の少ない奇病についての手記です。自己の顛末を”他人から聞き取り”、一部自分の当時の記憶を取り混ぜつつ自分に起こったことを明らかにしています。

 

この病気は、一見統合失調症らしく見えるため、精神科的アプローチを施されることが多いようですが、実際にはいわば脳でアレルギー反応が起こっている状態であり、これにより精神錯乱状態が起こされているようです。

 

本書にも書かれている通り、うちの義弟の彼女にも大きな腫瘍が片方の卵巣に見つかり、この腫瘍を摘出したところ快方に向かい、約半年後には大分普通の生活ができるようにはなりました。

 

この本の価値は、ひとえに、このような一見”悪魔憑き”のように誤って取り扱われてしまい適切な処置が施されない可能性のなる病気の存在、そしてその症状と治療の過程を知らしめ、そして誤診を防ぐという点にあると思います。その点では迷妄を科学へと連れ戻す非常に意義あるドキュメンタリーかと。

 

他方、筆者が若いからなのか、あるいは翻訳の問題か、筆致がやや幼いというか自意識過剰気味で、その点が少し読んでいてゲンナリしました。

 

精神を急に病んでしまった方が周囲にいる方、唯脳論を信じる方、リアルエクソシストについて知りたい方というのはおすすめできる本かと思います。

 

評価 ☆☆☆

2020/03/02

脳に棲む魔物

スザンナ・キャハラン/渋谷正子 KADOKAWA 2014年05月31日
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