海外オヤジの読書ノート

中年おじさんによる半歩遅れた読書感想文です。今年はセカンドライフとキリスト教について考えたく!

儚いなと感じたスパイの自伝-『理想はいつだって煌めいて、敗北はどこか懐かしい』著:史明 構成:田中淳

 

2019年の夏過ぎにYahoo!ニュースで紹介されており気になって購入、しばらく積ん読していました。

まとまった時間ができたので、寝る前に手に取って読み始めたところ、非常に面白い。どんどん引き込まれ、寝る間も惜しく、結局4時間程度ぶっ続けで読み続け、読了。

 

良いか悪いは別として、この史明というおじいさんはもうハチャメチャ。平穏な現代社会から考えると殆ど映画のような話です。

 

映画のような人生

本で読むと100倍面白いのですが、簡単に書くとこのような流れです。

日本統治下の台湾で裕福な家の跡取り息子として生まれ、早稲田大学へ留学。共産主義へ共鳴し、卒業後は中国へ渡りスパイ活動に従事(その間、パイプカットを断行)。中国潜伏中に共産主義専制的抑圧に幻滅し、愛人の平賀協子と共に命からがら台湾へ逃れる。おりしも台湾は中国国民党が逃れてきており、彼らが覇権をとると今度は中国共産党のスパイと疑われる厳しい状況へ。次第に民族自決的意識を高めつつ、追い詰められ捕まる直前で日本へ逃れ、亡命。以降、協子と中華料理屋を営みつつ日本より台湾の独立を目指し後進を指導し続ける。長年台湾当局より危険人物として扱われるも、1993年に台湾へ帰国し、台湾内部より革命をサポートしている。

 

強権的な台湾に驚き

このような劇画的描写の中で私にとって衝撃的であったのは、台湾という国が非常に強権的に描かれていること。確かに10数年前のテレビ番組などでは韓国や台湾の国会での乱闘騒ぎが面白おかしく放映されていたこともありました。しかし今台湾といえばグルメやフォトジェニックなシーンの多い国というイメージ。ところがつい1980年代までは著者のような志の高い人々を国家反逆罪というなのもとに逮捕・処刑をするような国でもあった。国は時に人の予想をはるかに超えて変わりうることをまざまざと見せつける。

 

人生は儚い。思想は怖い

加えて感じたのは、人の人生は儚いなあということ。この史明というおじいさんは自分の人生に満足しているのだろうか、と考えてしまった。もちろん本人は今も現役で理想に燃えているかもしれない。ひょっとしたら台湾の民主的な変化に意気揚々としているかもしれない。しかし、私からすると、彼は国・思想・エゴ・歴史に翻弄されつづけた人生に見える。家を継ぎ次世代につなぐことも果たせず、円満な家庭を築くこともできず、そして自らは「時代遅れ」と世の中からみなされつつある。

本人が満足していればもちろんよい。本人が周りとのギャップ(時代遅れになってしまったとか)に気づかなればまたそれも良い。しかしながら一番身近な家族を犠牲にしてまで捧げてきた共産主義民族自決主義も結局結実せぬまま氏を余儀なくされるとすれば、いみじくも共産主義が言うように宗教はアヘンであり、思想もまたアヘンであると思ってしまった。

  

まとめ

最後に纏めますと、本書はインテリジェンス、近代史、日本史、民族主義、中国および台湾に興味がある方にはおすすめできると思います。100まで年を数えることができたスパイの自伝であり、そのまま日本を含めた東南アジア近代史でもあります。

 

評価 ☆☆☆

2020/03/23

100歳の台湾人革命家・史明 自伝 理想はいつだって煌めいて、敗北はどこか懐かしい

史明/田中 淳 講談社 2018年12月17日
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