本の概要
香港と日本を舞台にした金融経済小説。法律の限界やルール・抜け道を熟知した“秋生”が、かつて手を貸した謎の美女の麗子を追う。ヤクザと女と金と法律が入り乱れる金融系サスペンス。筆者の橘玲氏は経済小説を得意とする作家。
感想
かつてファイナンシャルプランナーの勉強をしたことがありました。金融機関で働いていたとはいえ、保険・不動産・相続等々には無知であったので、これらを包括的に勉強できて少し賢くなった気がしたものです。しかし、この本で展開される知識はくらべものになりません。上辺のFP知識なぞ洟にもかからない位深いもの、知識と経験が融合したものだと感じました。
知識だけでなく、実効性を問うている
なるほどと思ってしまったのは、その知識の深さのみならず、ルールや決まりが実際にどこまで有効かというポイントが小説で頻出している点。後半部、香港での麗子の私書箱を扱う会社を調べる際、どこまで本人確認をするか、会社はわざわざお金がかかる日本までコールバックをしない(ハズだ)、同じ年ごろの女性の声ならよほどの癖がなければ別人だとはわからない(ハズだ)等々。これはほんの一例だが、パスポートの偽装の話や無記名式の割引債のロンダリングなど、本来法律違反だけれど、確かめようがなく実際抜け穴になっている部分を克明にに描いている。こうした実際どうかという話は、教科書の正論から入る私にとっては新鮮で深く感じました。
人間ドラマも悪くない
そんな知識中心の小説かと思うと決してそうではありません。ヤクザ・金・女と主要エンタテイメント要素がしっかり盛り込まれ、サスペンスもあり、普通に面白い。社会系小説の池井戸潤氏の作品と比べると冷めた展開ではありますが、それでもスリリングです。また、秋生の虚無感は結局人は何のために生きるのかをほんのりと投げかけている気もし、普遍的な疑問が小説に味を添えていると感じます。作品最終部で犯人が登場し、結局嫉妬で身を亡ぼしますが、そうした描写も人間の哀しさを上手に映し出していると思います。
香港と東京を大フォーカス。知ってる人は楽しい。
そして最後に、土地の詳細な描写。香港にゆかりのある人は旺角やトンキンマンションなどが出てくるし、東京でも井の頭公園や新大久保が出てくるので、そうそうあるよねーと、興味深く読める。他方これらの土地に縁がない人は??ってなってしまうことでしょう。まあそこが舞台ですから仕方ないのですが、風景描写がやけに細かい点が良くも悪くも少し気になります笑。
まとめ
まとめますと、エンタテイメント性十分の経済小説です。金融業界の方、海外暮らしに憧れる方、海外投資に興味のある方等には非常に面白く読める本だと思います。
評価 ☆☆☆☆
2020/04/28
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