海外オヤジの読書ノート

中年おじさんによる半歩遅れた読書感想文です。今年はセカンドライフとキリスト教について考えたく!

モダンホラーで恩田氏の力量を思い知る―『球形の季節』著:恩田陸


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本の概要

とある東北の町で起こる噂と予言の成就のごとく勃発する事件。4つの高校の合同クラブ「地理研」が噂を追うが、そこにあったのは。。。
作者の恩田陸氏は『蜂蜜と遠雷』で直木賞本屋大賞受賞。『夜のピクニック』でも本屋大賞受賞。広い作風が特徴の作家さん。

 

感想

恩田氏の作品といえば、私の印象では爽やかな印象がありました。サスペンス的要素が入っていても、残酷な殺人描写や性描写がない等、優しい印象でした。数例申し上げると、デビュー作『六番目の小夜子』や『夜のピクニック』などです。『ネバーランド』も面白かった。

 

lifewithbooks.hateblo.jp

爽やか系作家が挑むモダンホラー

しかし本作を読んで、この人は凄い人なのだと実感しました。本作はホラーなのです。恩田色をじゅうぶん残しながらも、しっかり怖いのです。ページを手繰る手が止まりませんでした。確かに裏表紙には「新鋭のモダンホラー」とありました。しかし、これまでの印象が強すぎて、殆ど信じていませんでした。ほんとにホラーかよ、と。読後の今、白旗を挙げますが、モダンホラーと呼ぶのにふさわしい作風と怖さでした。

 

向こう側の世界

ネタばれになりそうで申し訳ないのですが、本作のホラー要素の一つは、この世と並行して存在するもう一つの世界についてです。その世界については詳述されませんが、霊能力者のように簡単にアクセスできる人もいれば、大きな心的ショックを経てアクセスできる人に分けられるようです。そしてひとたびその世界に漬かると、仮に戻ってこれたとしても「人間」が変わってしまうという設定。

私は霊感なぞ全くありませんが、こうしたもう一つの世界には、興味が沸く一方で同時に恐怖を覚えます。本作ではこの異世界の恐怖がじわじわと味わえます。

 

でも恩田節は健在

シックスセンスの能力保持者とか異世界の話というと、モダンホラーの大家S.キングやD.R.クーンツが思い出されます。
しかしながら、舞台設定が学園という事もありますし、主人公がほんのり成長したような明るめの終わり方となっているところから、しっかりと爽やか系恩田節を味わうことができます。通して読んだ後に、やっぱり恩田氏らしい作品だと一人で納得してしまいました。

 

ここは良くわからなかった

少し不満を申し上げると、はじめの第一章と第二章途中までは、何故か非常に読みづらく感じました。表現が固い?のか、多くの登場人物が出てくるため頭の整理がしづらいこともあるかもしれません(ただ、第二章以降は引きづりこまれるかの如く面白い!)。また、章タイトルが長いのだが、今一つその意味や意図が分からなかった(例:第三章は「長い間地元では遠巻きにされてきたという」とか)。その点は少し減点かもしれません。

 

まとめ

纏めますと、本作は、恩田氏しか書けない爽やかでかつ怖いお話です。学園モノが好きな方、日本のモダンホラーに挑戦してみたい方、恩田氏のファンのかた等におすすめできる本です。面白かったです。

 

評価 ☆☆☆☆

2020/05/04

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