海外オヤジの読書ノート

中年おじさんによる半歩遅れた読書感想文です。今年はセカンドライフとキリスト教について考えたく!

肉食が避けられなかったのは欧州の貧しさが原因!?―『肉食の思想』著:鯖田豊之


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本の概要

豚やウサギを丸ごと食べるヨーロッパ人が、クジラを食べる日本人をして動物虐待という。このような自家撞着に見える生命観の在り方・考え方の原因を、ヨーロッパの歴史とそこで育まれた文化から読み解く。著者は京都府立大名誉教授で西洋史が専門で2001年逝去。因みに料理の本ではなく、カタめな文化比較論。

 

感想

著者が亡くなってから20年、本作が出版されて50年以上(1966年初版!)。経年により、各国の年間食肉摂取量など、一部現状と異なる部分が見られるが、その論拠の踏まえ方や視点の設け方など、参考になる部分は多い。

 

端的に言えば、欧州の肉食文化の起源を宗教的要因・環境的要因・文化的要因で説明し、更にそれが現代の欧米文化にどのように影響しているかを分析する作品。

 

家畜のと殺が普通なのはキリスト教が原因!?

ごくごく粗っぽく言うと、家畜を平気で殺すのは人間と動物は全く別物であるという思想、そして動物を含めた自然は神から授かったものだという意識があるから、という。つまりキリスト教へと原因を還元している。これだけだと端的すぎてキリスト教信者に怒られてしまいそうだが、肉食への抵抗感の無さのメインファクターの一つして筆者は宗教を挙げている。宗教が原因のすべてだとすれば飛躍した感があるが、原因の一つだとすればまあうなずける考えだと思います。

 

肉食が普通であるのは環境的要因!

実は筆者はこれよりも先に、環境的要因を挙げており、これが非常に面白かった。それは、欧州の土地の貧しさである。欧州というとフランスのような農業国を思い浮かべるが、実は土地の地力はそこまで良くないという。1958年時点で日本の米作の播種量は110倍程度であるのに対し、ベルギーでの小麦は20倍程度という(P.37)。他方、欧州の地中海付近では牧草が年中繁茂し、牧畜の餌としては最適であったという。ここから、ヨーロッパでは必要カロリー量を満たすためには痩せた土地で農耕をするよりも牧畜(日本のように餌を買う必要がないし)とそこから得られる肉や乳あるいはその加工品に頼る方が理に適うという推論が導き出される。つまり「生き抜くためには肉食に頼らざるを得ない」(P.83)のだ。これは腑に落ちる。

 

その他、中盤以降は、欧州の社会やインドのカーストそして日本の身分制度等を比較することで肉食文化に見られるヨーロッパ的なものが生成・強化されるプロセスが論説されている。一通りの通読ではややわかりづらかったがなかなか面白かったので時間をおいて再読してみたい。

 

まとめ

纏めますと、ヨーロッパ文化を勉強したい方、世界史でヨーロッパを勉強される方、比較文化的アプローチが好きな方にはおすすめできます。内容はやや古いのですが、日欧の違いを明確にとらえており、比較文化論としても面白く読めると思いました。

 

評価 ☆☆☆

2020/05/17

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