本の概要
日本経済新聞社編集委員の前田氏による、金融業界再編の20年史をまとめた力作。報道で伝えられた事実にとどまらず、当時の銀行トップの考え・思い、監督省庁の方針や狙い、さらに当時の時代背景や政治家の意向にまで言及。まとまりや咀嚼具合が絶妙であり、読み物としての完成度は高い。
感想
処分しようかと思いその前に再読した。ところが、改めてその完成度の高さに驚いた。業界の復習用、そして参考文献を参照するために、もう少し手元に置いておこうと思った。
銀行業界・関連業界に携わる人は必携
本書の内容は、金融業界、なべても銀行業界の現代史である。業界そのものが小難しい固いイメージがあるが、本書は非常に読み口がなめらかでまとまり感が半端ない。従い、業界人が概観を復習するのみ読むのにも適しているし、銀行業界に興味のある方、あるいはそこを目指そうという方が近年の状況を勉強する為にも非常にお勧めできる。
そのとき頭取は何を思い、何を考えていたか?
改めて述べるが、本書の内容はタイトル通り、金融再編の20年史である。この端緒を大和銀行事件とし、次に長信銀、そしてメガバンクの再編を順に詳述している。加えてネット銀行の隆盛についても付言している。この一連の再編を通底しているのがバブル崩壊と護送船団方式の瓦解、そして金融ビックバンである。
筆者は上記の再編の流れと日本の金融行政の変化を、自身の各方面への取材での印象や各行トップの著書なども取り混ぜることで実にビビッドに描いている。ここから実に見事に、出来事の中心人物たちがどう思いどう考えていたかを考え、述べている。本書はこの点で銀行史について深い理解を与えてくれる。
銀行業界の今後
本書の最終章は「銀行に未来はあるのか」というタイトルだ。当然のことながら明快な答えなどはない。ただ私は、通読して改めて、旧来の護送船団方式にも或いはアングロサクソン型の自由主義的な経営もどちらにもプロコンがあると気づいた。時代にあう運営という要素も必要だろうが、地域や文化に根差した運営も考慮すべきかもしれない。その意味で、政治家や官僚、そして経営者に必要なこととは、変化を続ける世の中にプロアクティブに対応する・試行し、ベストミックスを探ることなのかもしれない。
ふと思ったが、おじさん(私も含め)や経営者が愛読書として辛気臭い歴史書を挙げることがままあるが、その理由は、こうした時代の変化への対応に対し解答やヒントを過去の歴史や事例に求めるからなのかもしれない。
まとめ
まとめると、本書は日本の現代金融史を学ぶ上では非常にまとまっていており、お勧めができます。ただ、たった20年ばかりで世の中の建て付けがいかに変わってしまうかが良く分かります。銀行業界を含め、常識や慣習が実はたった一時のことに過ぎないのだと思うと非常に感慨深いものです。
評価 ☆☆☆☆
2020/05/28