海外オヤジの読書ノート

中年おじさんによる半歩遅れた読書感想文です。今年はセカンドライフとキリスト教について考えたく!

一緒に居るだけが友達ではない!―『きみの友だち』著:重松清


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本の概要

交通事故で松葉杖なしに歩けない恵美と病気がちな由香。人気者のブンのもとに現れるデキメンのモト。彼らの周囲で変化する人間関係。ちょっとしたことで友人が友人でなくなり、相手を完膚なきまでに叩き潰す残酷さ。人間の弱さを優しく描くとともに友達とは何かを問う良書。作者の重松清氏は『ビタミンF』で直木賞受賞。小中高生などティーンを主人公に多く取り上げ、中学受験や高校受験での問題文として出題されることもしばしば。『流星ワゴン』はじめ、ドラマ化作品も多い。

 

感想

昨日はわくわくしながら眠りにつきました。

私は就寝前に本を読むのですが、昨日この本を読み終え、じんわりしながら読書灯を消し、ああ早くこの気持ちを書きとどめておきたい、どう書こうかな、どう表現すれば自分のこの興奮を表せるかな、と考えながら眠りについたのでした。

もともとは読書嫌いの子供達に読ませる目的で購入しましたが、本当に素敵な作品でした。

 

人とは弱いもの。作者のやさしい視線が好き

さて、この作品の素敵なところは何といっても作者の目線の優しさ。各章が一人の人物にフォーカスしていますが、どの人物にも弱みがあります。自分の負けや弱さを認められないとか、友達に囲まれていないと気が気ではないとか。大人でもそういう人はいるけれど、こうした心の弱さみたいなものは思春期では顕著で、しかも、周囲を傷つけながら露見することが多々あります。しかし、筆者はこうした人物を丁寧に、そして優しく描写しています。その筆者の優しさを作中では恵美ちゃんが担っています。

因みに私の一番のお気に入りは佐藤君。先輩風を吹かす、先輩という肩書をとると何も残らない人。よくいますね。周りから見たらイタいだけなのは本人だってわかっているんですよね。わかっていてもそれしかない本人。きっと本人が一番つらいはずです。

 

仲がいいだけが友達ではない

そして友達について。表題にもなっている通り、作品を通底する友達とは何かというテーマ。読了後、今もって私にもわかりません。ただ友達の定義について考えてみることは大事かもしれません。

私事で恐縮ですが、学生時代に家出をしたり、40過ぎて家族で移住したり、割と人間関係については平気で断ち切ってきました(因みにこの前Facebookやめました)。それでも残る人間関係があります。ただ大なり小なり認めてくれているのでまだ連絡先が残っているのかなあ。そういう人たちを友達と言っていいのかもしれません。よくわからないけど。

重要なことは、''いつも一緒に居なければ友達ではない''、''価値観や考えが同じじゃないと友達ではない''、友達とはそういうものではないということ。その関係は恵美と由香、そしてブンとモトに象徴されていると思います。

 

作品の語り部は実は・・・!

因みに、語り部について。読めば気づきますが、先ずもってこの作品は違和感から始まる。この作品の語り口についてどうにも解せない感覚を持つと思います。作品を語る人が誰だか分からないのです。話を読み進めるうちにいつしか慣れてしまい気にしなくなるこの語り部。実は超重要人物であるのですが、この”語り部”の正体は最終章で明かされます!そんな構成も、私は好きです。

 

まとめ

まとめますと、この作品は小中高と多感な時代の登場人物を描く甘酸っぱい青春小説です。読み方によっては恵美という超心の強い女の子が最後に幸せになるっていう単純な強者の話にも読めます。でも私は、”人間は弱さの塊だ”という作者の考えを(勝手に)くみ取りました。子どもも大人もすんなり読めて、考えるテーマを与えてくれる良書です。

 

評価 ☆☆☆☆

2020/05/29

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