海外オヤジの読書ノート

中年おじさんによる半歩遅れた読書感想文です。今年はセカンドライフとキリスト教について考えたく!

色々なタイプの恩田作品が楽しめる―『図書室の海』編:恩田陸


f:id:gokutubushi55:20200720190314j:image

概要

各種文芸賞を多数受賞している恩田陸氏による短編集。月刊誌でのアンソロジー特集に所収されたものをはじめ、これまでの作品のスピンオフ的なもの、ファンタジー物などなど、書きぶりが異なる作品が所収されており、筆者の違った一面を見られる仕上がりとなっている。

 

感想

これまで、私の中では恩田氏は青春小説の書き手というイメージが強かった。共学高校生爽やか青春系。

ですので、先日、『球形の季節』というモダンホラー作品を読んで、とても驚きました。普通に面白怖くて。

lifewithbooks.hateblo.jp

ところが今回、本作を読んで、筆者の才能に改めて驚嘆した次第です。SFチックなのも書けるんだ、と(『オデュッセイア』)。

 

本作では、いわゆるイヤミス的なモチーフの作品が多く、湊かなえ氏の作品に通底するものを感じました。書きぶりは作品に応じて変わりますが、相変わらず表現・言葉が美しく素晴らしい。情景が目に浮かびます。

 

これが良かった六選

本当に違った顔を見せる筆者ですが、私の好きなものを六つ、簡単に概要と印象を書きます。

 

『春よ、来い』・・・今日、高校の卒業式を迎える和恵と香織。少し家を早く出たばっかりに交通事故に遭う。もしも引き留めることができたら、もしも向かいの道路で呼びかけなかったら。もしも・・・。想像と現実が錯綜しながら、古今和歌集の春歌と共に詠まれる、『もしも・・・』のその後の物語。

 

『茶色の小瓶』・・・社内では目立たない。でもそつのない仕事ぶりの三保典子。看護学校を卒業した典子は、何故か会社でOLをしている。ふと気づくと、更衣室で彼女は茶色の小瓶を見て気味の悪い笑顔を浮かべる。彼女の正体は。。。

 

『ピクニックの準備』・・・明日は学校名物の「ピクニック」。それも高校最後のイベント。同じ父を持ち、高校入学前に父親を亡くした西脇融と甲田貴子。高校最後の「ピクニック」を前にして、それぞれに去来する物事をおもう。『最後のピクニック』スピンオフ作品。

 

『国境の南』・・・とある喫茶店の奥に居るウエイトレス。しっかり者の姉、といった風の望月加代子。そんな加代子に思いを寄せてか、喫茶店に集まる常連たち。そんな常連が一人、また一人と体調を悪くしてゆく。事件が発覚した時、すでに加代子はどこかに消えていた。

 

『図書室の海』・・・『六番目の小夜子』スピンオフ。関根秋の姉、関根夏を中心に据えた番外編。

 

ノスタルジア』・・・「私の体験した不思議な話」、といった風情の中で語られる、私の体験した不思議な話。高校まで一緒に居た私の「天敵」。就職・結婚・離婚を経て彼女から呼び出されたが、彼女が現れることはなかった。なぜなら彼女は。。。

 

おわりに

短編集なので気軽に読めます。でも、やはり『六番目の小夜子』と『夜のピクニック』を読んでから本作を通読頂き、関連作の「図書室の海」「ピクニックの準備」を読めば、より味わいも深いと思います。読み方の是非については翻訳家の山形浩生氏が巻末で平和にまとめてくださっているので詳細はそちらに任せたいと思います笑。その他イヤミス系作品が多く、そうしたジャンルが好きな方にはおすすめできます。

 

評価 ☆☆☆

2020/07/12

海外オヤジの読書ノート - にほんブログ村
PVアクセスランキング にほんブログ村