海外オヤジの読書ノート

中年おじさんによる半歩遅れた読書感想文です。今年はセカンドライフとキリスト教について考えたく!

たまにはほっと息抜きしたいあなたに、自由すぎる中学生のお話を!―『宇宙のみなしご』著:森絵都


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概要

直木賞作家にしてティーン小説では大家と言っても過言ではない森絵都氏の作品。本作で野間児童文芸章を受賞。今回もさっぱりとした性格の女子中学生が主人公。

 

感想

 中学生が主人公の小説、というと意外に思い浮かばない。私が中学生の頃だと、『僕らの七日間戦争』(宗田理)、個人的に印象的だったのは『ソロモンの偽証』(宮部みゆき)、海外だと『スタンド・バイ・ミー』(スティーブン・キング)などが思い浮かぶ。スタンド・バイ・ミーは小学生か?今Wikiで調べたら主人公は12歳とある。

 

 まあいいや。兎に角、思春期というのは、よろず甘酸っぱく、そして、ノスタルジーと共に語られる運命にある時代だと思う。本作『宇宙のみなしご』も、そんな甘酸っぱさを感じる作品だと思う。ただ、中高生向きと思ってバカにしないでほしい。個人的には大人にこそ心の洗濯に読んでほしい作品です。

 

あらすじはこんなかんじ

 極々乱暴に話の筋を述べると、超放任家庭で伸び伸びと中学生をする陽子(中二)とリン(中一)の姉弟を中心にした人間関係のお話。彼らは制約のある中で面白い遊びを懸命になって探すのが趣味。ある日見つけた”人の家の屋根に登る”という遊びに、ひょんなことから陽子のクラスメートたち(へっぽこ系のクラスメート)が参加することでドラマが展開してゆく。

 

主人公のキャラ設定から読み解く中学生の息苦しさ

 話の筋はいくらでも他所に書いてあると思うので、主人公のキャラ設定から色々と裏読みしたいと思います。 

 主人公の陽子の性格は多感な中学生が多い中では特異だと思います。人と群れず、かといって閉鎖的でもなく、また自分のことも他人のことも結構客観的に見えている。何かをひけらかすわけでもなく、負い目や引け目を感じて生きているわけでもない。大人びた性格。

 現実に存在したら、陽子みたいなキャラに惚れてしまうのかもしれないなあ、と思ってしまった。人を見かけで判断しなさそうだし、判断しててもその事実をはっきり言いそうだし、裏表がなさそう。こういう人が友達だと楽だし楽しそうかな、と(もちろんおっさんの私ではなく、自分が中学生ならばね)。

 

 でも、作者が陽子を主人公に据えたのは、現実はやはり陽子のようなキャラは成立しづらいからだと感じてしまった。世の中、人の顔色を窺わないといけないし、いじめとかスクールカーストとか怖いし、人と違うことで指弾されたり、そうしたことに神経をすり減らすことが多いのだと思う。そんなことを考えると、日本国憲法第9条は現状ではなく理想を描くのだ、という主張のごとく、こんなすっきりとした中学生や中学生活は理想にすぎない(=現実にはありえない)と勘繰りたくなる。少なくとも、やっぱり中学生という時代は難しい時代なのだろう。

 

タイトルの意味とは

 そういえば、本作のタイトル『月のみなしご』、どういう意味だろう?と思いませんか。これについては本文の終わりの直前に触れられています。

「ぼくたちはみんな宇宙のみなしごだから。ばらばらに生まれてばらばらに死んでいくみなしごだから。自分の力できらきら輝いてないと、宇宙の暗闇にのみこまれて消えちゃうんだよって。(中略)でも、ひとりでやってかなきゃならないからこそ、ときどき手をつなぎあえる友達を見つけなさいって、富塚先生、そう言ったんだ。手をつないで、心の休憩ができる友達が必要なんだよ、って」

 そう、この作品は、「心の休憩を許してくれるような友達」作りを薦める本なんです、きっと。私にはそんな友人いるかしら。。。まあ嫁さんは許してくれるかな。

 

おわりに

 本作を読むと、きっとかほっこり、すっきりしてもらえると思います。日頃のしがらみやら義務から同調圧力から上司からの要求やら、生きていると何かと大変なものばかりなおのです。たまには気を抜いてほっとしたくなりますが、本作はそんな息抜きを精神的にもたらしてくれる作品だと感じました。 

 

評価 ☆☆☆☆

2020/08/05

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