筆者と作品について
各種文学賞を総ナメにしている小川洋子氏。『妊娠カレンダー』で芥川賞、『博士の愛した数式』で読売文学賞および本屋大賞を受賞、後に映画化。本作『ブラフマンの埋葬』は泉鏡花文学賞を受賞。
感想
引き込まれるように読んでしまった。ページを手繰ること数時間、日をまたぐことなく読み終えました。その誘いは至って優雅であり、決して推理小説のように貪るように本へ向かわせるのではなく、寧ろ私をそそのかすかのように優しく誘うようでありました。
としゃれ込んだ書き出しをしたくなるほど、本作の文章は美しく、帯に書いてある通り、静謐という形容が一番しっくりくる書きぶりでした。
小川氏の文体の美しさとは
文体が綺麗といっても、感覚とは相対的であり、人によって当然違います。異性の好みで例えると(ごめんなさい)、ちゃきちゃきした子がかわいいと思う人や、お嬢様系の人をかわいいと思う人、所謂グラマラスな方がいいとか、それはもう好みの問題とおんなじで千差万別です。
私が文章が綺麗と言うとき、真っ先に思い立つの西加奈子さんです。なんというか、個性的な美しさ、あるいは横溢する生命力のような力強さに惹かれます。一方小川洋子さんの作品もこれはもう美しいという以外の形容ができない文章でして、非常になめらかでおしとやかと言うのでしょうか。深窓の令嬢というか正統派美人というかのごとく、生まれや育ちが雰囲気から違うのを感じてしまうかのごとき美しさ。でもその雰囲気は、自然でいてかつ押しつけがましくない、寧ろ控えめといった体です。
と、書いた後で本作の文体の美しさが伝わったかやや不安になりましたが。。。
本作はどのように味わえば良いのか
さて、本作の内容ですが、先ずタイトルからして予想がつきませんでした。冒頭で主人公の住処の窓を叩き、助けを求める存在。それが何らかの小動物だとわかりますが、ん?タイトル何だっけと肩に目をやりますと、ブラフマンの埋葬、とあります。ああ、何かしらの動物がブラフマンという名前で、これとの絆が構築され、そしてそれが途切れる、系の哀しい話なのかな、と当初は想定しました。
ところが実際には手に汗を握るような展開などなく、展開はいたって淡々と進みます。そしてあっけないばかりの突然の終了。
また、主人公以外にも数人の登場人物が出てくるものの、それらの背景や主人公との関係が騒がしく語られることもなく、その意味でも「静謐」。文脈や行間を想像しながら味わう作品であると思いました。
終わりに
実は小川氏の作品は遅ればせながら、私にとっては今回が初めてでありました。いくつかのブログで書評を拝見しておりとても気になっており購入に至ったものです。
ドラマチックな展開や大胆な構成が取られているわけではありません。ドラマ好きやアッと驚く系が好きな人にはお勧めできかねます。文章そのものの書きぶりを味わえる方にはおすすめできます。その点ではちょっと難易度高めだと思います。
評価 ☆☆☆☆
2020/08/15