海外オヤジの読書ノート

中年おじさんによる半歩遅れた読書感想文です。今年はセカンドライフとキリスト教について考えたく!

学歴という残酷な現実を描くミステリー小説(論点が多く、おすすめ)


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筆者と作品について

イヤミスの女王、湊かなえ氏の初テレビ脚本作品。頻繁に入れ替わるシーンに多様なキャラクター達の個性が光る。そして怒涛の結末にあ然とさせらせる。イヤミスのイメージが強い同氏であるが、結末はポジティブなものであった。

 

感想

 シーンが頻繁に飛び、登場人物が多くはじめの方は人物把握に手こずった。しかし、ラスト五分の一は疾風怒濤の展開。そしてまさかの結論でした。ああこの群像劇は映像で見たら面白そうだなあ、と思っていたら、案の定湊氏初のテレビ脚本でありました。

 

学歴社会をどう評価するか

 端的にドラマとしてのエンタテイメント性が非常に高いのはさることながら、社会問題としての受験や学歴について考えるよいネタとなります。

 受験というたった一日の試験の結果で人生が左右されると考える価値観。その価値観に親が固執すること。これらが良いことなのかどうか。他方、我々も肌感覚で学歴が学力がすべてではないことを経験上感知しているわけです(実例が皆さんの周りにも沢山あるかと)。受験という制度から学歴社会を考える良い題材になると思います。

 因みに私は個人的には『学歴は絶対ではないが、社会ではいわゆる「パスポート」として機能する』と考えています。良し悪しで言えば改善の余地はあるとは思いますが、社会の効率性のために必要悪として機能しているように感じます。ただしこのパスポートの期限はせいぜい5年から10年程度ではないかと想像します。これくらいの年限があれば、学ばない人は激しく劣化していきますし、努力して学ぶ人はものすごく伸びていくと感じます。ちなみに、努力して学ぶという点では以下の本が私のバイブル。

 

lifewithbooks.hateblo.jp

 

ネットとの付き合い方、コニュニケーションの観点も

 もう一つの社会問題としてはネットとの付き合い方もフォーカスされます。匿名性に隠れて言葉の暴力を振りかざすネット社会。自分が被害者になる可能性も多く有り、ネットリテラシーについて考えさせられます。

 感じたことをそのまま表出すればよいのか、正論だけ言っていればよいわけでもないし、他人を思いやる表現をどうすればよいかなど、コニュニケーションの問題にもつながる観点です。

 

人の弱さに関するエトセトラ

 その他、作中で先生方が採点ミスするシーンが出てきます。それを開き直って物のせいにしたり責任放棄をしたり。ここまでのひとはなかなか居ませんがこれに近い人は結構いますよね。人は間違う動物であると私は思いますが、ミスを前提にどうやって仕事を組み立てるかという事はビジネスマンが考えるべきテーマでもあります。

 また社会人経験のある帰国子女の先生を、ことあるごとに「帰国」とまとめるシーンがあります。これはいわば人にレッテルを貼る行為であり、それ以上の理解を拒むことでもあります。身につまされると同時に、人付き合いについて気を付けるべき教訓にもなりえます。

 

終わりに

 そもそも本作は、高校受験に挑む息子にでも読ませてみようかなと買ったものでした。しかしながら、それだけにとどまらず考えるネタも多く、かつエンタテイメント性も高い、非常に完成度の高い作品であると感じました。機会があればドラマも是非見てみたいと思いました(ちなみに長澤まさみが主演とのこと)。

 

2020/08/24

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