本の概要
財務省でクリントン政権時に財務長官ルービンや財務次官サマーズ(後のハーバード学長)と共にアジア危機への対応に従事したことを皮切りに、ニューヨーク連銀総裁、第75代財務長官(オバマ大統領時)を務めたガイトナー氏。彼の手による回顧録。主に財務長官時代のリーマンショック時の対応時の記録がメイン。ちなみにガイトナー氏は幼少時をタイ、インド等で過ごしておりアジアと縁がある。
感想
タイトルにも書いた通り、余りにも長い。ですので、官僚、当局関連、政治関連の方、あるいは金融関連の方以外にはあまりお勧めはできない。ハードカバーで厚さ4cmはあろうかという大作。正直言うと、もっとコンパクトにできると思います笑。
当方は金融業界に職を得ており、為政者の考えを知ることは業界の方向性を考える上で役に立つと考え購入しました。この夏休みに読んでみようかと積読の山を取り崩して読み始めたものの、読み終わるのに一か月ほどかかりました。回顧録なのでフィクションほどの起伏もなく、眠気を覚えることしばしば。妻はこの本を『聖書』と呼んでいた程です(ビジネスホテルに備え付けてある聖書だってこんなに厚くはないけど)。
自己資本強化は業界の流れ。流動性の確保のためには必要。
さて内容ですが、上に記した通り金融関連の方には参考になると思います。作品の中心はリーマンショック前後の米国であり、リーマンの破綻やAIGの息切れと共にクレジットシュリンクが起き、金が流れなくなった金融市場の話です。ガイトナーは財務長官としてFRBや議会と協力・対峙しつつ、金融機関に金を注入し、取り付け騒ぎやインフラとしての金融システムの破綻を防いだ。
政策の賛否はさておき、リーマンショック時のこうした流動性の枯渇を見るにつけ、手元資金をしっかり持っておかなければ金融機関でもあっという間につぶれてしまうということを実感します。レバレッジの怖さはFXや信用取引で相場を張っているときにマーケットが逆に動けば容易に体験できますが、取引主体が金融機関で連鎖反応を起こしたら、それはもう恐怖です。システムとして破綻しますし、国の信用も落ちます。自己資本規制やバーゼル3がなぜ大切なのかちょっとわかった気がします。
自由の国の政治はなんだか不自由だなあ
次に注目したいのは、自由の国アメリカの政治の困難さです。
本を読む限りはガイトナーが念頭に置いたのはあくまで金融システムの維持(連鎖倒産や過剰反応および取り付け騒ぎ)であり、金という血流を流すことです。ところが当時議会は共和党主導であり、一般的に減税志向の保守ですので、大切な血税使って強欲金融業者を手助けする(かのような)ガイトナーの政策は攻撃の的になってしまいました。
一旦炎上すると、マスコミも含めてあることないこと報道されるし、家族もそれに巻き込まれる。個人的な印象ですが、米国って案外息苦しいのだなあと感じてしまいました。国や正義のために業務に従事していても多くの誤った報道によってイメージが固定化されてゆく怖さを感じてしまいました。
同様に民主党のオバマ政権と共和党の議会とのねじれ状態から、オバマ政権としても『取引』として不本意な政策を一部余儀なくされたことが書いてありました。このあたりのガイトナーのフラストレーションは非常に良く描けており、私自身読むだけで疲れてきてしまった。
こうした2院政による取引の後に政策にエッジがなくなる様子は、民間でもままある様子かと思います。当初はとんがった政策だったのに、前例がないとか、責任が負えない等々で、結局凡庸なものになり下がります。ちょっと本文からは外れますが。
おわりに
あらためて述べますが、決してつまらない本ではありません。それなりに面白いです。ただ、内容が政治と金融に偏っていますので、それに関連した方であればこの長さに耐えて読書してみても良いのではないでしょうか。それ以外の方には、、、、たぶんもっと素敵な本があると思います笑
評価 ☆☆
2020/09/18