かつて内海聡氏の著作で参考文献として挙げられており、興味が湧き、本書を買い求めるにいたりました。
内海氏は医師でありながら、いわゆる「陰謀論」的な書きぶりが目立つ作家ですが、言っていることは極めてまともであり、私は好感を持って読んでおりました。
本作の筆者である田中氏は、逆にある意味フツーなお医者様であると感じています。非常に真摯で誠実です。ですので、「色もの」として読まないで、普通の健康本として読めます。
コレステロールの専門家による健康本
そんな田中医師が書いた本ですが、主にコレステロール医療について書かれています。より詳細に言い換えれば、コレステロールについての常識は間違っている、という主張です。コレステロールについて、医学界には多くの間違いやミスリードがあると警鐘を鳴らしているのです。15年程前に出た本であり、やや古いのですが、十分に読み応えのある、学ぶべき本であると感じました。
そのデータは性差を考えているか、あるいは民族差はどうか
先ず初めに感銘を受けたのは、データを疑えというメッセージです。
コレステロールはよくない、コレステロール値を下げろという話は、テレビ番組やトクホ系商品のCMでよく目にします。また日本のコレステロール医療は、なんと数値だけで治療方針を決めているそうです(P.65)。
ではその根拠は何なのでしょうか。
高コレステロールが良くないことは分かるのですが、その結果起こる心筋梗塞は、欧米での発生率は日本の4-6倍とのこと(P.45)。でも日本で使用されているコレステロールの基準値は、この彼我の差を考慮されているのか疑問です。単純に欧米の実験をパクって作られたガイドラインである可能性があります。上梓から15年経った今、多少は改善があるのかもしれませんが、検診でコレステロール値で引っ掛かる方は要注意です。欧米の実験結果から導かれたガイドラインなら、別に気をつけなくてもいい程度の数値であるかもしれません。
或いは男女差についてはどうでしょうか。一般に男性よりも女性の方が脂肪がつきやすいものですが、コレステロールも同じ基準で扱ってよいものでしょうか。男女性差があるならば、当然コレステロールの基準値も違うはずです。或いは年齢はどうでしょうか。コレステロールが高めな30代と70代が居たとして、同じ処方でよいのでしょうか。
本作品は、こうした切り口から、昨今往々にして見られるガイドに沿っただけの洞察のない医療に対し、きわめて批判的な記述を展開しています。
医学界と関係業界との癒着?
また当然のことながら、筆者は、日本に蔓延するシンプル過ぎるガイドラインは、医学会と製薬業界との癒着であると類推しています。或いは医者の製薬業界への歩み寄りとも言っています(P68, P122)。
人間的にはいい医者でも、ガイドラインを疑うことをしない方も居るでしょう。ガイドラインを疑う医師もいらっしゃるでしょうが、そんな反旗を向う見ずに翻して自分の生活を壊したくないという医師も多くいらっしゃると思います。
だからこそ、こうした背景について教えてくれる本書に価値があります。
おわりに
ということで、結論。自分の身は自分で守る。当たり前すぎる結論であります。筆者はここまで述べていませんが、私の読後の感想はまさに上の通りです。
人を疑うっていうのは、費用という観点から考えると本当に高コストです。医師を疑い、ガイドを疑い、製薬会社を疑うなんてしていたら日が暮れてしまいます。
しかしながら、その引き換えが命であるならば、もう選択肢はないのだと思います。
自分はいつ死んでもいいから、そういうのはいいやって考える人(昔の私)。本当でしょうか。自分の愛する人が不要な投薬を過多に受けて体調を悪くしたら堪えられますか。自分の子供や孫だったらどうか。あるいは親ならどうか。あるいは一番の親友ならどうか。そう、どうでもよくないのです。
そんなどうでもよくないことに対処する第一歩。はい、それが読書だと思います笑。そうですねえ、例えばこの本とかですかねえ笑。
評価 ☆☆☆
2020/10/18