海外オヤジの読書ノート

中年おじさんによる半歩遅れた読書感想文です。今年は世界史と英語を勉強します!

記憶という自己のアイデンティティが損なわれるとき、あなたは何を思うか?―『博士の愛した数式』著:小川洋子


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存在については随分前から聞いていたのだが、何故か米国映画『ビューティフルマインド』の二番煎じと勝手に断定して、本作を避けてきました。

 

ビューティフル・マインド[AmazonDVDコレクション]
 

 

 ところが、このところお邪魔している書評ブログの方が小川氏の作品について書いており、小川氏の作品はどんなものがあるかと物色している中に本作を発見、試してみようと購入に至りました。

 

さて感想ですが、やはり面白く、引き込まれるように貪るように読み、一日にて読了しました。

 

80分しか記憶の続かない数学者と、そこへ訪問する家政婦とその息子。老数学者の純真な探求心や子供への極端なまでの優しさ、家政婦の博士を見やる優しいまなざし、そして息子ルートの子供ながらに抱く博士への無垢な優しさ。こうした心情描写が小川氏の優雅で美しい文体で描かれています。

 

そんな読中に印象に残るのは、記憶の重要性です。

記憶とは、人のアイデンティティを構成する基礎部ではないかと常々考えていました。名前とか性別とかが自己のアイデンティティとよく言うのですが、私はいまいちピンとこないところがありました。むしろその根底には、自分が自分であるという記憶、その記憶こそが自分を自分たらしめているのではと思いました。

 

私は小学校三年生くらいから死ぬことが怖いと感じ始めましたが、私が死を怖く感じる理由の一つは、こうした『自分』という記憶がぷっつりと切れてしまうことへの恐怖なのかなと読了後にほんのりと考えてしまいました。

 

それを考えると、博士が日々感じる絶望感は如何ばかりであったかと考えてしまいます。自分に関する記憶の大部分が日々失われている。生きながらに死んでいるような気分であったのかと思います。

 

さて1点だけ注文を。個人的には後書きの藤原正彦氏の解説は盛り下がりました。これは要は作成秘話的な数学者への取材エピソードです。まあ読者のわがままなのですが、小説を小説として読みつつも現実として信じていたいところがありました。しかし藤原氏の話を読むと、美しい作品も結局は現実の作り話、一生懸命取材した末の創作か、とちょっと興ざめしてしまいました。

 

とは言え、淡々とした展開ながらぐんぐんと読めるし、しかも文章は美しいし、数学者と家政婦という取り合わせ・記憶というテーマも面白いと思いました。

 

評価 ☆☆☆

2020/11/5

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