海外オヤジの読書ノート

中年おじさんによる半歩遅れた読書感想文です。今年はセカンドライフとキリスト教について考えたく!

19世紀イギリスを文学作品を通じて読む―『大いなる遺産』著:C・ディケンズ 訳:山西英一


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 まず率直に感想を言いたい。結構、面白い!すんごく超絶面白い、というわけではありませんが、150年前に英国で書かれた本であることを考えると、時間的・距離的な隔たりを越えてもなお、人間というものは変わらないのだなあと感慨深く思いました。

 

息子が中学校で読んでいた

 さてそもそもの出会いですが、息子が外国の学校に通っているときに、中学2年の文学の授業で取り扱っていました。ディケンズも大いなる遺産も聞いたことはありましたが読んだことがなかったので、では買ってみようとなり購入、息子も私も積ん読を決め込み、その一年後、私だけがこの度ふと思い出し読んでみたものです。

 

念の為、あらすじを

 超絶端折ったあらすじを申し上げます。幼少時に父母を亡くした貧乏なピップ、ふとしたことから謎の人物より遺産を差し上げる(予定の)旨打診される。これを受け入れ、貧乏な田舎暮らしを脱し、都会にて「紳士」となるべく修養を積むが、忘恩と高慢を助長しつつ成長する。成人後、謎の人物がとうとう現れるが、まさかの人物であった。その人物に対し、ピップの心は次第に変化してゆく。。。とまあこんな感じです。主人公ピップのクズさ加減が良い味をだしてます。

 

訳が古いのは致し方ないか・・・

 はじめにどうしても気になるのはその訳です。初版が1951年ですから今から70年前です。紅蓮、羅紗、満願成就、鸚鵡返し、青豚亭、など今であればきっとそう訳さなかったと思うような箇所が多めです。ただこれは訳者のせいではなく時代のせいです。私は常時金欠なので中古を購入しましたが、Amazonで検索するとこのカバーのバージョンは出てきませんね。今はもっと良い訳があるのだと思います。

 ちなみに英語版は格安で読めますので、Kindleをお持ちの方は是非書庫に入れていただき、比較して読んでみても面白いかもしれません。私も入手し、ダウンロードまでして結局読んでおりませんが笑

Great Expectations (English Edition)

 

世界史の一環として読むと面白い

 時代背景を読み込むと、少し違った見方もできます。

 物語の描かれた1860年前後とは大英帝国産業革命を成し遂げ、アジアへも進出をすすめ始めたころ。国としては躍進中も、市民生活は寧ろ資本主義社会の本格的な到来により二分されたように思えます。都市労働者がジンなどの安い酒で憂さ晴らしをするというのが当時の慣習であったと世界史で習いましたが、本作でも酒場でジンを飲むという場面がよく出てきます。また、主人公を紳士(After遺産)と鍛冶工(Before遺産)という対極的に描くさまは、当時のイギリスで「二つの国民がいる」と言われたことと符合します。

 

 カール・マルクスが『資本論』を書き上げたのが1867年。市場経済に任せる自由放任・レッセフェールのカウンタカルチャーが産声をあげようとする社会情勢とは、まさに大多数の市民が貧困や困窮にあえぐような社会であったのだと想像します。主人公ピップの育ての親ジョーやその周囲などはどちらかというと下層階級であったろうと思います。

 

おわりに

 改めて申し上げると、産業革命後のイギリス庶民の生活状況も分かる、歴史的にも興味深い本でした。話のプロットもなかなかツイストが利いている。結論を予想させない展開は今読んでも古びていない。エンターテイメント小説としても当時バカ売れしたのだろうなあと想像しました。

 

評価 ☆☆☆

2020/11/16

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