マレーシアというと多くの日本人にとってはあまり馴染みがないとはないのではと思います。南国くらいしかイメージがなく、ひどい人だとシンガポールやフィリピンなどとゴッチャになっている方も見かけます。ロングステイ先としては近年日本では有名になってきましたが、やはり印象が薄いですね。
私は多少縁があり、他の方よりはよく知っているつもりなのですが、題名にマレーシアに関連するものがあるとついつい反応してしまいます。ということで本作を図書館で発見し、読んでみた次第です。
題名にあるマレー鉄道は殆ど出てこない笑
そもそも本作は推理小説のなかでも新本格と呼ばれる部類の作品とのこと。ありていに解釈させて頂くと、ずばり謎解きを楽しむ部類の小説だと思います。その点で言えば、なかなか面白かったです。売れない推理作家の有栖川有栖が、犯罪心理学者の火村を連れだって旅行先のマレーシアはキャメロン・ハイランドで密室殺人事件に遭遇する。さらに事件を追ううちに起こる連続殺人事件と、これらの背後で起こっていた過去の事件が徐々に明らかに。滞在期間が限られる中で火村と有栖川がこれを見事に解決する、といったものでした。
マレーシアをちょこっと学べる
本作に特色を求めるとするならば、未知なる国マレーシアの情報をより理解しやすい形で吸収できることが挙げられます。
よくあるマレーシアの紹介ですとペトロナスタワー(都庁のような二本立てビル。日本のハザマがその一部を竣工)とかKLIA(故黒川紀章氏が設計)が来ます。7割以上はこんな感じ。ところが本作はより玄人好み。マレー鉄道(タイから陸路でマレーシア・シンガポールへと接続)、イポー(首都クアラルンプールから車で2時間ほどの小都市。ホワイトコーヒーやチキンライス、もやしが有名)、さらには紅茶や野菜の産地として有名なキャメロン・ハイランドなどが出てきます。このあたりは知らない人にはへーという学びになるでしょうし、知っている人はそうそう、という反応かもしれません。
また、ジム・トンプソンのことが触れられている点も陰謀論が好きな私としては評価が高いところです。彼はCIA(の前身)のエージェントであったものの、戦後タイでシルクを商い、財をなしました。ところが、休暇で訪れたマレーシアのキャメロン・ハイランドで忽然と姿を消し、以来消息不明です。当時森に潜んでいた共産ゲリラに殺害されたという説をよく聞きます。
ここは頂けない!
他方、ちょっと不満な点もありました。ムスリムと華僑文化の理解です。先ずネーミング。本作中で殺害されるワンフー・ビン・リムと妹のシャリファ。彼らの父が酒飲み医者のドクターリム。このリム(林?)は広東系のよくある名前なのですが、Bin~(~の息子)のネーミングは基本ムスリムだけです。ついでに言えばシャリファというのもムスリムの女性の名前。この一家がムスリムだとすればお父さんが戒律を平気で犯すという家庭になり、ある意味(物語と言えども)マレーシアのムスリムを侮辱しちゃっているような記述になりますし(大っぴらに酒を飲むムスリムはいません)、この一家が普通の中華系だとするとネーミングからして理解が不十分という事になります。
厳しいこと言うなよ、そういうこと言っていると面白さが半減するじゃん、とか言われそうですが、そうです笑 ごめんなさい。ただ、知っている人にとっては結構基本的な事でもあり、読む気がそがれてしまう可能性があります。
おわりに
ということで、文化的背景を無視して推理小説として純然と読めば楽しめます。他方、マレーシアに関連したものを読みたいので読もうというのであれば、マレーシアを殆ど知らない、あるいはあまり知らないという方にはお勧めできません。妙な誤解をする可能性があります。ある程度知っている方には、本作が誤謬を含むことを前提に楽しく読んでもらえればと思います。
評価 ☆☆☆
2020/11/21