海外オヤジの読書ノート

中年おじさんによる半歩遅れた読書感想文です。今年はセカンドライフとキリスト教について考えたく!

会見と印象が違う!堅実な文学作品―『共喰い』著:田中慎弥


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 芥川賞受賞時に「もらっといてやる」、と何か逆切れ気味だった会見ばかりが印象にあった作家さん。当時私は文学とか読書とは縁遠い生活で、仕事と家庭で精一杯の時期でした。

 

 さて、先日図書館に出向いたところ、在庫処分?なのか無人販売所で30円で本作が販売されておりました。手に取って作者名をみて会見のシーンを思い出し、手に取りました。

 

 本作は表題作の「共喰い」と「第三世紀の魚」の二本立て。以下に簡単なあらすじと感想を。

 

『共喰い』

 エッチを覚えてしまった高校生の遠馬、その彼女の千種、女性に対してはだらしない父親(しかも最中に暴力を振るうことで興奮するらしい)、父と遠馬と共に暮らす琴子さん、遠馬の実の母で隻腕の仁子さん。こうした面々が田舎の狭い共同体で生活するさまを描いています。

 

 若い性の横溢。そしてその親にも未だに漲る性。繰り返される暴力。これがテーマでしょうかい。

 

 個人的には暴力よりも、性へのオープンな様子に関心を引いてしまいました。

 性の目覚めを経た後に、父親と継母の性生活を知ってしまうというのは、複雑な心境になります。また少年自らの性の営みを父親や母親に悟られるのも、これまた恥ずかしい。性の話は最も根源的なトピックですが、なかなか正視しづらいものです。我が家も長男がもうじき高校生になろうとしていますが、その手の話をなかなかできずにいます(教育的な観点ですよ)。

 

 その点で本作は、なんというか下衆、醜悪な部分があるかもしれません。性という人間の本質、見たいけど正視したくないものを、あからさまに見せてくる。

 笑いにおいて下ネタは反則、などと言ったりもしますが、小説でも同じような気がします。良くも悪くも性への印象しか残らない。

 そういえば、若者の溢れんばかりの性、という点でいうと、かつて読んだ『青春の門』を思い出しました。

 

青春の門 文庫 第一部~第七部 (講談社文庫)

青春の門 文庫 第一部~第七部 (講談社文庫)

  • 作者:五木 寛之
  • 発売日: 2012/05/29
  • メディア: 文庫
 

 

 

第三紀層の魚』

 はじめに『共喰い』を読んだので、こっちの作品は非常に静的に感じました。戦争を経験し今は死ぬ間際である曾祖父、警察官だった自殺した祖父、そして急な病気で亡くなった父。このような過程で母と二人で暮らす小学生の主人公。

 

 バックグラウンドが暗い感じの家ですが、描写には暗さはあまりありません。調子の悪い曾祖父と主人公が共通の話題である「釣り」や「魚」を通じてコミュニケーションをとる様子など、題名にもある通り「魚」がテーマとなっています。

 

 これと言って印象は強くないのですが、内容に起伏があるわけでもないのに、文章が丁寧でとても読みやすく感じました。

 

おわりに

 とてもしっかりとした堅実な、でも読者にやさしい読みやすい文章を書く作家さんだと感じました。ただ一般的な娯楽小説とは趣を異にするので、大売れしなさそうに感じました。機会があたら他の作品も読んでみたいです。

 

 

評価 ☆☆☆

2020/12/12

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