いやあ、悔しい。なんというか、すごい。
いや、すごい面白いというのでもない(失礼しました!)。なんというのだろうか、そう、展開がまるで予想もしない方向へ進んだことに心底驚いた。
これまで幾つかの恩田作品を読んできました。私にとって、彼女の作品のイメージは青春爽やか系なのですが、ミステリー作家とみなした方がしっくりするかもしれない、そう思わせるほどの驚きの作品でした。
あらすじ
幻の作品で私家版である『三月は深き紅の淵を』という書籍を巡る物語。4部構成になっていますが、それぞれの章で『三月は深き紅の淵を』を追い求めるストーリーが展開されます。
各章構成
極力ネタバレしないように粗く描きますが、
第一章・・・サラリーマン、金満家のお屋敷に潜む『三月は深き紅の淵を』を探す。
第二章・・・女編集者、『三月は深き紅の淵を』の起源を探す。
第三章・・・二人の美人高校生篠田美佐緒と林祥子が死んだ理由とは?
第四章・・・どうぞお読みください。
特徴
読後に感心しきりになってしまった理由は、何といっても構成です。
皆さん、劇中劇とかってご存じですか。近頃のドラマでもたまにありますよね。お話の中でニュースのワイドショーが繰り広げられていたり、ドラマの中で文字通り劇団がドラマを演じたり。
本作は本なので、類似のことを表現しようとすると本中本というのでしょうか(あぁ、済みません、言ってしまった)。その展開があっと言わせるものでありました。これを見ただけでは意味不明でしょうがい、読んだらああこれの事ねえとわかるかもしれません。
ちょっぴりすてきな発想:個人図書館
あんまり書くとこれから読む方の楽しみを奪ってしまうので、代わりに、作品中にあった素敵な発想を書いてみたいと思います。まずは第一章から。題して「生まれて死ぬまで個人図書館」
「生まれて初めて開いた絵本から順番に、自分が今まで読んできた本を全部見られたらなあ、って思うことありませんか? 雑誌やなんかも全部。そうそうこの時期はSFに凝ってたなあとか、このころはクラスの連中がみんな星新一読んでたなあとか。それが一つの本棚に順番に収まっていてぱらぱらめくれたら。そういう図書館が一人一人にあって、他人の読書ヒストリーを除くっていうのも面白いだろうなあ。」(P.90)
ちょっといいなあと思いました。たまにAmazonの購入履歴をみて、ああそういう本読んだなとかなります。また、書評ブログをやる理由も、過去読んだものを形に残しておくという点であるとすれば発想は似ています。しかし、すべての本というと、大抵の男子の場合かつて買ったエロ本とかも並んじゃうんだから(私はもっと恥ずかしい本も買ったものですが。。。)、他人に覗かれたらやっぱり恥ずかしいでしょうねえ笑。
ちょっぴりすてきな発想:本のなる木
もう一つだけ。続いて第二章から。本のなる木を夢想する女性編集者の一言です。
「今でも人間が小説を書いていることが信じられない時があるあるもんね。どこかに小説のなる木かなんかがあって、みんなそこからむしり取って来ているんじゃないかなって思うよ。この稼業を選んでずいぶん経つけど、未だにだまされてるような気がする。いつかきっと『ほらーやっぱりそうだったんだー』って、その現場を押さえてやろうと思っているのよね」(P.162)
なんか夢のある可愛らしい発想じゃありませんか。赤ちゃんはコウノトリが運んでくる的な。しかし、赤ちゃんだって、生々しい人間の性の営みの末に生まれるのと同様、きっと小説も、作家さんの頭をかきむしるほどの呻吟の末に出来上がるのでしょうね。でも素敵な発想です。フランスポストモダンとかドイツ観念論のなる木があるとすれば恐ろしくイカつい木に生えているのだろうなあとか想像しちゃいました。
終わりに
まとめますと、本作は人によって好き嫌いがある作品かもしれません。特に第四部は物語と独白が重なっていて、結構わかりにくかったらかです。でも、私は第四部があったからこそ、さすが恩田氏、という想いを抱きました。
でも本好きな人には是非読んでほしいなあと思いました。本や読書が主題ですし、作家・編集者・読者とそれぞれ本に対する見方や想いが描かれており、そういう視点もまた興味深いものでした。
評価 ☆☆☆☆
2021/01/23