概要
フランス史のなかでも、ブルボン王政時の歴史を人物中心に濃ゆく濃ゆく描写しています。ビギナー向けの新書というより、あくまでフランス勉強したい方、フランスマニア等に勧めの作品。
なお本作は3巻シリーズの最終作ですが、単体でもきちんと読める形となっております。本作はヴァロア朝末期、ユグノー戦争と時の権力者カトリーヌ・ド・メディシスが権勢を振るう辺りから描かれます。
扱うのは主に絶対王政時代
フランス王朝史が三冊セットでKindleで50%オフであったため、カペー朝の勉強をしているときに購入しました。
ブルボン朝は両手で数えられる程度で終わってしまうためか、前作前々作以上に王へのフォーカスが当たり、王たちの生々しく赤裸々な?乱痴気的な部分が描写されています。
性豪アンリ4世?
ブルボン王朝の中でも創始者たるアンリ4世の描写は面白かった。スペイン国境近く、ピレネー山脈の麓のベアルンで生を受けたこの男をベアルネ(ベアルン男)とかガスコン(ガスコーニュ地方出身の男)と書いています。これがまた、田舎育ちだけれども男らしくさばけていて、女に弱いという性質でして、イメージ的には九州男児が東京で大成功を収めるといった風でありました(完全にイメージで語っています。ごめんなさい)。
王位に着く前に、淫女と名高い?マルグリッド(ヴァロア朝シャルル9世の妹)と結婚、その後カトリーヌ・ドゥ・メディシスによる美人局集団「遊撃騎兵隊」から使わされたソーヴ男爵夫人の「掌に収まるおっぱい」(位置7657)に篭絡され、妻マルゴさえも夫は身体を壊すのではと心配させたほどに。更に地方の城郭では、ディアーヌ、コリザンドとかいうのにもハマり、何故か修道女3人を立て続けに愛人にし(いいのかよ)、宗教戦争中にはガブリエル・デストレ(透き通るような白い肌だったとか)に入れ込み、マルゴとの離婚取り消し手続きを経てマリー・ドゥ・メディシスと結婚。その後も、アンリエット・ダントラーグ、ジャクリーヌ・ドゥ・ブイユ、さらにはシャルロット・デサールを愛人にし、そのすべてと子供を儲けている。しまいには庶子も嫡子もすべて一緒に育てたというのだから無神経も極まれるという感じでしょうか。良くも悪くも凄い。
その後も男女関係がすごいすごい・・・
その他、小ネタも満載。ルイ13世王妃のアンヌと、後の宰相マザランとの愛人関係、太陽王ルイが建設したヴェルサイユ宮殿を作る原因となったフーケの私邸ヴォー・ル・ヴィコント上での宴会の様子、ルイ15世の愛人ポンパドール婦人が絶倫すぎるこの王にもう勘弁してほしいと拒絶した話、はたまたこのルイ15世のための公然たる必要悪「鹿の苑」での性宴の話など。
ブルボン王朝の歴史的意義とは
なお、少し疑問に思ったのは、筆者がこのブルボン王朝への評価としてフランス人という意識、国民意識を醸成した時代であると総括していることです。
「フランス王家はフランス人という意識を高め、フランスという国を存在せしめた。わけてもフランスを神格化するまでに称揚したブルボン朝は、この文脈において歴史の最たる功労者と言えそうである。」(位置11793)
確かに宗教戦争を経て国内を平定し、外国との戦争も行ったのは事実でしょうが、当時の庶民がどのように感じていたのかについては極めて叙述が少ないなかで、この発言は些かに納得しかねると感じました。
外圧による国民意識の醸成はよくあるセオリーですが、王朝も程なく革命で倒されることを考慮すれば、一般市民にとっては王家すら「外圧」としてみなせるのかもしれません。そういう事であれば、筆者の発言もわからなくはないです。つまり国王を倒すためにフランス人としての意識が高まった、という意味です。
おわりに
このブルボン王朝については、その後、途中ナポレオンの登場を挟みながら、フランス革命の入り口すぎくらいまでしっかり描かれているのですが、上記で書いたようにシャルル4世とアンリ15世の話が印象が強すぎて、その後あまり集中できませんでした(苦笑)。
しかし、作者の佐藤氏はとにかく人物描写が詳細であり、まるで王宮に隠れ住み、柱の陰から生活を観察をしていたかのような臨場感でした。これは前作、前々作から続き高い水準で維持されており、筆者の調査の綿密さに感嘆します。この作品をより楽しむためには王朝の系図、フランス地図、加えて年表が掲載されている資料集があるとゼッタイ役に立ちますし、私はそうやって読みました笑
歴史好き、近世・近代好き、ヨーロッパ好き、フランス好きな方々にお勧めの一冊です。
評価 ☆☆☆☆
2021/02/19