海外オヤジの読書ノート

中年おじさんによる半歩遅れた読書感想文です。今年は世界史と英語を勉強します!

官僚はこう考える。例えば金融行政なら。―『金融システムを考える ひとつの行政現場から』著:大森泰人


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 これまで幸か不幸か知り合いに官僚になった人がいなかった。唯一就活時に知り合った東大君とは、ともにアセットマネジメント会社の試験を受けた。私は最終面接で役員に絡まれ落ちた。リクルートスーツにリュックにスニーカで来ていた彼は、面接の感触など一切気にせず『ま、ダメなら官僚になるし』と爽やかに言ってのけて去っていった。彼が官僚になったかどうかはわからないが、以来、私の官僚のイメージはその彼の影響か、ちょっと変わった秀才君となっている。

 本書はそんな官僚による作品である。ただし私は考えを180度改めることになった。

 

概要

 本作は、大蔵省から金融ビッグバンを経て金融庁で要職を務めた大森氏による業務日誌的論説集です。作品中でも述べている通り、何か一つのテーマを一貫して論じているのではなく、その都度その都度従事している法制の内容や意義、趣旨について行った寄稿や講演を集めたもの。また本作を編む段階でその時にどのようなことを考えていたか、また論文や寄稿とのつながりについても書いてあるので、筆者の想いや考えが伝わりやすくなっている。

 なお内容は、金融ビッグバン一般、投資サービス法(今の金融商品販売法?)、証券取引法におけるエンフォースメント、銀証分離、上限利息制限と貸金業法の改正、破綻銀行の処理等々、おおよそ金融に関連しない方には殆ど興味も湧かないような内容かと思います笑

 

ルール作りは結構シンドイ。頭良くないとできない。

 そんな本作ですが、へぇーとなったのはまさに官僚の気持ちや仕事ぶりが分かったことです。法律はそのものを見ると眠気を催す方が殆どだと思いますが、それだけ文字面にすると途端に現実世界からは乖離したものになってしまうかもしれません。しかし、当然ながら、法律の成立(改正)には背景や相応の事件があり、更に立法府(政治家)や業界団体への説明(時に説得)、隣接業界や法制との整合性を勘案し、時限がある中で必要な内容を織り込む。加えて言えば内容を規定した途端、監督責任が出来、きちんと取り締まらないとその不作為を訴えるというリスクも出てくる。そんな法律に魂を込めている現場が伝わってきました。

 

行政官としての矜持が伝わってくる

 また、この行政官の向いている方向が国民、という点も少し感動しました。

 作中に言及されている法律にいちいち目を通したわけではありませんが、迷ったらそれが国民の役に立つかと考えるそうです(言及箇所を失念しましたが)。貸金業法の改正と投資教育の拡充はややパターナリズムにすぎる気もしますし、いわゆる新自由主義の方々からすると、こんな過保護だから余分なコストが掛かるんだと言われそうですが、法律が何を守るための者かと言えば筆者は国民と言っているのですから、明快で分かりやすいし、支持したいと思います。

 

おわりに

 本作は以前読んだ『ドキュメント銀行 金融再編の20年史 1995-2015』で言及されていて気になって購入したものでした。

 

lifewithbooks.hateblo.jp

 

 金融村では、金利を政策手段とする中央銀行に注目することが多いと思いますが、監督省庁たる金融庁の行政官の考えを知ることも非常に重要だと感じました。

 同僚が逮捕されたり自殺したりする修羅場を経験し、仕事だと思っていた作為をもとに逮捕されるリスクを負う。そんな経験をしてきた筆者ですので、仕事は厳しそうです。でもこういう方と仕事をすると、まっとうかつ本質的な仕事ができそうで面白そうだなあとすこし感じました。書き方が率直ですが、行きすぎとか不躾に感じない文章でした。

 

評価 ☆☆☆☆

2021/02/27

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