作品について
イギリスの児童文学作家ロアルド・ダール氏の自伝。
幅3cm程度の分厚い洋書で二部構成。前編『BOY』では祖父や父らの思い出から始まり学生時代の懐古、高校卒業後Shell石油へ入社しアフリカへ赴任する辺りまでが語られます。後編『GOING SOLO』では、アフリカへ赴任後の生活とその後第二次世界大戦に際し航空隊への入隊、従軍活動の様子を中心に描かれます。因みに筆者の父母はノルウェー出身。
感想
先日MATILDAという作品を読んで以来、この作者の作品を読みすすめていますが、自伝も面白かった。彼の作品の主人公は小学生くらい子である場合が多いのですが、生い立ちを知るにつけ、どうやって彼の作品が生み出されたのかが分かった気がします。また、戦争の最中でも、良くも悪くも彼の子供っぽい純粋さが見て取れ、こういう人がやはり児童作家となるのだなあと感じました。
英国寄宿学校での生活
筆者は非常に裕福な幼少時代を過ごしており、1923年(7才)より就学、Llandaff Cathedral School, St Peter’s, Reptonと転校をしながら修学しています。St Peter’s からはいわゆるボーディングスクール(寄宿学校)となりますが、大分小さい頃から親元を離れるのだなと感慨深く読みました。結構ハードないたずらが好きな男の子だったようです(ネズミの死骸でいたずらを仕掛けたり。ここ読んでほしいなあ)。また寄宿学校ならではの理不尽さ(先生や上級生との上下関係)に、随分窮屈な思いをしたようでした。もちろん、これは大分昔の話で、100年もたてば様子も様変わるのでしょうが、日本の芸能人が子どもを英国のパブリックスクールにやるなんて話を思い出すにつけ、今の寄宿学校はどんな様子なのかなあと思いました。
チャーリーとチョコレート工場
そういえばRepton在学中はCadburyのチョコが無料で食べられる機会があったそうです。その代わりにチョコの味の感想をまとめてCadburyに送ったそうです。そしてこの体験が『チャーリーとチョコレート工場』へとつながったとのこと。
ちなみにこのキャドバリーというチョコ会社は旧英連邦を中心に代表的なチョコ会社で、現在でもオーストラリア、ニュージーランド、シンガポール、マレーシアなどでは販売されていますね。
大人になってからも、ナイーブ!?
さて、そもそも筆者がShellに入ったのも、今でいうところの駐在員になれる可能性が高いから、とのこと。現在のタンザニア、ダルエスサラームという所へ20才そこそこで赴任しますが、南国だしコックもお手伝いさんもおり、ラッキーだわーみたいな楽しさ・嬉しさが文章から伝わってきます。素直です笑。また英国帝国主義のに関する考察が殆どなく『当時は本国で許されないような乱痴気が、アフリカ・インド・マレー連邦などの他の英領ではやりたい放題で見られたものだ』(P.235)などと書かれていると、戦勝国と戦敗国との彼我の違いを見た気分でした。
若干場違いなナイーブさは更にに続き、戦闘機で移動中に動物や自然の景色の美しさに見とれたり、パレスチナに逃げ込んていたドイツ系ユダヤ人との会話でユダヤ民族の国なき状況(ディアスポラ)を当時全く知らなかった等を告白しています。
英語
英語はこれまでのDahl作品の中では一番難しかった。前編「BOY」はまだ字が大きめですが、後編の「GOING SOLO」では字が一回り小さくなり、情報量が増えます。航空隊RAFに後編で入隊しますが、戦争用語には当然のことながら若干苦戦しました。asphyxiate (v)窒息させる, ammunition(n) 弾薬, berth(n)投錨, periscope(n)潜望鏡, 等々。
おわりに
やや長めで若干辟易しましたが、航空訓練から戦中の知人が殆ど生きて帰ってこなかったなど、凄惨な戦争を幸運にも生き抜いた彼が最後に英国で母親と再会するシーンはなかなか感動しました(親目線で読んでいますよ)。
単なる伝記というよりも、戦争の悲惨さや世界の広さ(アフリカや中東、ギリシアの様子が描かれています)を知るという点でも、小学校高学年から中学生程度の子ども以上に薦められる内容の作品だと思いました。勿論大人が読んでも味わい深い作品です。クウェンティン・ブレイクの挿絵も相変わらず可愛い。
評価 ☆☆☆☆☆
2021/03/14