今回もやられた。何しろ出だしが『清。私の名前だ。』とこう来た。
え、誰?男、女?振り仮名はキヨって書いてあるけど、キヨシじゃないだろうなあ・・・などとページを手繰るスピードが加速します。
『幸福な食卓』でもそうでしたが、「つかみ」が本当にお上手です。
さて今回のお話は部活一本やりの高校生の主人公が、名前の通り清廉過ぎて、とあることで級友が自殺してしまい、以降、やりたいことも見つからず、ぐだぐだな大学生活を経て、ぐだぐだな不倫生活の最中に講師として赴いた高校で不慣れな文芸部なる部の顧問としてぐだぐだと生徒と過ごしていく中で彼女自身を回復していく、といったようなお話です。
人の不完全への温かい眼差し
瀬尾さんの作品は本作を含め3つ目ですが、人の弱さや不完全さに対して優しい眼差しを向けているように感じます。
級友を自殺に追い込んでしまった主人公の完璧主義。その後不倫からも抜けられない。そんな主人公の状態は決して褒められたものではないし、ましては肯定できるものではないかもしれません。だけど、人間とはそんなに強いものではないし、いちいち色んなことでヘコんだり悩んだりするものだし、時に奈落の底でもがいてなかなか上がってこれないことだってあると思います。
ひょっとして勘違いかもしれませんが、私は主人公の描写に筆者の弱さへの寛容さを感じました。
自分ならどうフォローするかな
主人公は、弟や文芸部唯一の部員の垣内君との何気ない日々から恢復の兆しを得ました。でも現実に何となく問題抱えていそうな人がいたら、自分は大人な対応できるのかな、とちょっと不安になりました。
評論家のように人を責めるのは簡単ですしそんなのは嫌ですが、かといって内情を知りもしないのに安易に価値判断はしづらい。かといって、遠巻きに見ているだけというのでは爪弾きにしているのと大して変わらない。「なんかあったら話聞くよ」って言って、結果話されないでおしまいって感じなのかな。
まとめ
題名から本とかの話が沢山出てくるのかなと手に取りましたが予想以上に重たい作品でした。しかし、文章の端々にユーモアを交えて語る瀬尾さんのスタイルは、読んでいて楽しい。人の弱さとか寛容とかについて考えさせる良い作品だと思います。希望の見える終わり方も好きです。ただ、主人公の、おとぼけな不倫相手の発言に対する心理描写は滅茶苦茶リアルです。そういう意味では中高生にはちょっと薦めづらいなあ。
評価 ☆☆☆☆
2021/03/12