海外オヤジの読書ノート

中年おじさんによる半歩遅れた読書感想文です。今年はセカンドライフとキリスト教について考えたく!

フランス近代美術の巨匠たちの姿を間接的に描く―『ジヴェルニーの食卓』著:原田マハ


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 本作で原田氏の作品は二作目。相変わらず美しく、内容も美術に関するもの。西洋近代美術に興味がある方はその背景を学ぶ上でも非常に参考になると思います。

 

概要と感想

 本作は4作の短編からなっています。それぞれが画家についての話ではあるもの、あくまで周囲の人物や事象により本人を浮かび上がらせる形をとっています。

 

うつくしい墓・・・マティス。彼のもとで家政婦を務めた老女による、巨匠の思い出。南仏の陽光の風景が目に浮かぶ素敵な作品(行ったことないけど)。ピカソなどの周辺人物との人間関係も描かれる。

 

エトワール・・・ドガ。米国人画家のメアリー・カサットからの視点による。貧しい女性、貧しい画家、それぞれが年齢や性別にかかわらず必死に生き抜くための様を描く。

 

タンギー爺さん・・・セザンヌ。画材屋兼画商のタンギー爺さんの娘から、セザンヌへ宛てた一連の書簡により作品を構成。印象派を懸命に応援したタンギー爺さんと当時の印象派の低すぎる社会的地位が印象的。

 

ジヴェルニーの食卓・・・モネ。継娘のブランシュの視点より。自然の美しさ、政治家クレマンソーとの友情、モネを巡る人間ドラマなど。オランジェリー美術館誕生の小噺も。

 

美術とかフランスとか

 突然ですが、美術の価値・存在意義って何でしょうか。

 まあ美しいものを作り出すってことでしょうか。とすると、では美の定義とは? これまた人により色々違いますね。

 とどのつまりは皆が美しいというものが美しい。これは民主主義的に首肯せざるをえない。他方で、個々人がとらえる美というのも確かにあります。

 

 作品では、このような美の新たな地平を切り開いた画家たちの人生の一部が鮮やかに描かれています。自分の信念がある一方、その信念を曲げて、あるいは折り合いをつけて、自分の美ではなく大衆の欲する美を想像し、生活の糧を得なければいけない現実もあります。そのような自他の相克が時に痛々しいほど描かれているのが心に残りました(『エトワール』)。

 これはサラリーマンにも通づるところがあると感じました。

 やりたくない仕事、だけどやらねば食えない。でも、サラリーマンはある意味楽ですね。仕事=自己実現とは決してならないのは多く初諸先輩方がおっしゃられる通りです(『おかれた場所で咲きなさい』という本が過去に流行ったのを覚えていますか)。でも、画家のように、自らの美、これこそが真実で正義であるのに、自分を曲げて社会に迎合するというのは相当度に精神に影響がありそうです。

  

まとめ

 面白かったです。フランスの風景描写も美しく、そして折に触れて出てくる美術作品をgoogleで確認しながら見るとさらに面白い。

 フランスに興味がある方、美術に興味がある方にはかなりお勧めです。またフランスへの旅行を計画されている方にも、お勧めです。行くべきところ見るべきところの予習としても使えるかもしれませんね。

 

評価 ☆☆☆

2021/03/20

 

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