本書は第二次世界大戦後、GHQトップとなったマッカーサーの回顧録。
95%以上は気持ちよく、へーなるほど、とか、敵ながらあっぱれとか、つらつらと読んでいました。しかし最後の解説を読んで、本書の出色の出来は寧ろ解説にある気がしました。同時に本の怖さを想いました。
概要
基本的にはマッカーサーの回顧録。それだけ。第二次世界大戦で日本軍に攻撃され、フィリピンを退却、オーストラリアに移り、オーストラリア防衛、反撃はパプアニューギニアから始まり、再度フィリピンで日本軍を叩き、そして降伏した日本に降り立つという彼の第二次世界大戦とその後についての10年の歴史の抄訳です。正確に言うと、大部にわたる日本語訳の内、太平洋戦争の部分と日本占領の部分だけを切り取って文庫化となったようです。
特徴
その特徴と言えば臨場感・生々しさだと思います。
日本軍の攻め入るフィリピンから逃れるのに、ギリギリまで戦い、時間を稼ぎ、本土や後方で支援が整うために尽くす。軍人としての自分の進言とワシントンとの意見の違い、政治家との確執。巧みな戦略により日本軍の補給線を遮断し、米軍側の無駄な落命と消費を防ぐ様子。降伏後の日本での困難(単なる軍人から全権を預かる政治家・指導者へ)。
作戦の成功を他人からの電報や日本軍の将校の手記で敢えて補足する自画自賛のきらいはありますが、筆者の歩んだ道がありありと伝わってきます。
増田弘氏の解説が出色
ところが増田弘氏の解説を見ると見方が全く変わります。
マッカーサーは非常にプライドの高い男で、フィリピン陥落は相当彼のプライドを傷つけた事。マニラを落とされる前に台湾を叩くべきとの進言について、本文では『新聞で知った』として自分のところへ上がってこなかったとしているが、周辺状況から見ると彼はその意見を握りつぶした(つまり嘘つき。そしてそのせいでマニラは落ちた可能性が高い)。マニラからの脱出も中央の進める潜水艦ではなくてPTボートで敢えて危険を冒したのは閉所恐怖症だったから、等々。まあとにかく史実ではなさそうなことが(或いは裏事情がこれでもかと出てくる)。
おわりに
つまり、これは単なる回想。回想とは歴史書でもなく記録でもなく、言わば思い出です。つまりそこには思い違いもあり得る。むしろ積極的に思い違いをしている可能性も否定できない。
解説付きで読まなければ読んだものはすべて正しいものと思い込むに違いありません。地位ある人の作品であれば、猶の事ハロー効果もあり信頼してしまいがちです。
しかし、そうした著作は決して史実を表しているわけではないし、寧ろ自己正当化のために使われている事さえあるという事を本作で学びました。
真実はその場にしかありません。しかし記録されたとたんに文字は事実とみなされる。でも記録された文字が虚偽であったらどうするか?周辺情報を調べ確認するしかありませんね。
今回の読書でバカみたいに本を読んでもただのバカであるということを深く実感しました。とりわけノンフィクション系・歴史系の本の読み方については考えねばならないと思った次第です。
評価 ☆☆☆
2021/03/30