海外オヤジの読書ノート

中年おじさんによる半歩遅れた読書感想文です。今年はセカンドライフとキリスト教について考えたく!

文具好き必読!文房具で想いを彩る、鎌倉歳時記―『ツバキ文具店』著:小川糸


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 代書屋という職をご存じでしょうか。なんでも人の代わりに手紙を書くのが仕事だという。

 

 本のカバーにあるあらすじを見ながらも、けったいな職業があったものだと斜に構えつつも手に取ったのは、七割くらいは東野圭吾の『ナミヤ雑貨店の奇蹟』と取り違えていたからだと思う。いつだかの飛行機で映画『ナミヤ・・・』を見たのだが、あれの小説だったら子供達は読んでくれるかも、と期待してのこと。

 

 というか、カバーのあらすじを見た時点で、この本が自分が意図した作品ではないと認識はしていた。でも代書屋なんて面白そうだし、ということで買ってしまった。そして、実際面白かった! ま、代書屋という不思議な職を見た時点で子どもに読ませる本を探すというミッションは7割がた頭の中から排除しています笑

 

著者のほっこり世界観がかわいい!!

 何が面白いかと言われるとちょっと困る。でも面白い。何というか、素敵な感じ(表現力なくて済みません)。

 

 先代である祖母を亡くしたことをきっかけに代書屋の職を継いだ主人公鳩子が、お客さんの依頼に対し真摯に応えるという、型の定まった展開が繰り返される。テレビドラマ化されていますが、さもありなん。

 ただ、持ち込まれる依頼がちょっと風変わり。お悔やみ状、離婚のお知らせ、かつての恋人へ寄せた手紙、謝絶状、還暦のお祝い、母へ宛てた亡き父からの手紙、絶縁状、そして本人の亡き祖母へ宛てた手紙などなど。

 

 主人公はおおむね受け身で、そして素直です。

 依頼者の思いを受けとめ、確かにそれでは自分で書けないだろうと納得し、依頼者の心情を推しはかり、その気持ちに合った文具・インクの色、封筒や便箋をチョイスし、そして時に文言を絞り出すのに苦しみつつ、文をしたためてゆく。

 クレイン社の便箋、ガラスペン、モンブランの万年筆(ボールペン)、クレヨン、羊皮紙、インク、墨、など、書き味や風合いを絶妙に表現しており、使ったことのある人ならばそうそう、と膝を打つことも多いかと。使ったことのない文具でも、興味を抱かせ、今度手紙でも書いてみようかなと思わせる描写です。

 

 こうした、実に局所的な小さな『事件』の数々が鎌倉を舞台に展開され、主人公の真摯で時にユーモラスな態度が、季節の移り変わりとともに、美しい手紙へと昇華してゆきます。

 

つけたし

 そうそう、あと、本の左側にパタパタマンガがついています。主人公の鳩子にちなんでハトが手紙を運ぶマンガです。こうした細かい部分も含め本全体が素敵な一冊となっています。
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おわりに

 本作、上にも書きましたがテレビドラマ化されています。多部未華子さんが主役を演じていましたが、小説を読むと彼女のイメージがぴったりハマります。

 全体を振り返るとほっこりする作品だと思いました。鎌倉という由緒ある舞台、四季を感じるストーリ、手紙という一風モダンでない伝達手段、そして人に対する想い、そうしたものを堪能できる素敵な作品であると思いました。文具好き、鎌倉好き(いるのかそんなん!?)、ほっこり系の話が好きな人にはお勧めできる作品です。

 私も鎌倉に住んでみたくなりました!!

 

評価 ☆☆☆☆

2021/05/15

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