海外オヤジの読書ノート

中年おじさんによる半歩遅れた読書感想文です。今年はセカンドライフとキリスト教について考えたく!

英国・フランスの両国民国家の夜明け―『英仏百年戦争』著:佐藤賢一

 世界史を学んだ方なら、ノルマンコンクエストの1066年が英国建国年号となっていることを授業で教わったかもしれません。覚えていますか。 

 その時、一部の方は疑問を持たれませんでしたか? え、だってフランスのノルマンディ公が英国をとったのならある意味英国ってフランスじゃねって?

 


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 はい、その通りです!ある意味その時イギリスはフランスでした!

 

 本作はそんな英仏100年戦争前後にフォーカスし、その当時、英国もフランスもなかった、あったのは王侯貴族の陣取り合戦だけで、100年戦争の終結とともに国民国家の萌芽のようなものが見えてきた、と論じるものです。

 

 そんなのどっちでもよくね?と思われる方も多いと思います。1000年くらい前に英国が英国でなかったってあんまり関係ないし、みたいな。

 

 でも、私はこれ、結構重大なことだと思いました。

 というのも。やれフランスだイギリスだとEUの中で喧嘩してたり、フランスとドイツが仲悪いとかよく言いますが、結局それって幻想だったという結論になりえるからです。国民国家なんて作り話ですっていうことになりうるのです。

 

 もとをたどればイギリス人の一部(大部?)はフランス人。そしてフランス語も喋っていた。フランスだって、もとはと言えばゲルマン民族が移り住んだ場所ですよね。

 そんな同根の民族がいがみ合っている意味って何なのでしょうか? 国民国家ってあたかも民族・言語・文化がアプリオリに特殊でユニーク、みたいな印象がありますが、存外に皆似たり寄ったりかもしれません。もしそうだとすると、国同士の争いも、所詮ちょっと遠めの親戚とのいがみ合いくらいに思えてきます。

 そんなことを考えていると、所謂右派という、その国々の国民が第一という考え方もちょっと拙く感じられてしまいます。

 

 と書いたところでやっぱり世間的にはまあどっちでもいいのかもしれないと思い始めました。ただ、外国で外国人として生きていると、右翼の排他的姿勢や外国人排斥という感情的な扇動は他人ごとではありません。そんな時に国民国家って何だろうなとたまに考えたりもするわけなのです。

 

おわりに

 以前、佐藤氏の作品でフランス王朝史シリーズをKindleで三冊まとめ買いをして読みました。前作同様、本作も人物本位の濃い描写で内容を面白く読むことができました。随所に地図が挿入されており、巻末には家系図もありますので、本で読むほうが理解はしやすいと思います。あと巻末に30ページ超の年表がありましたが私は飛ばしました笑

 私のような歴史好き、わけても西洋史、イギリス史、フランス史に興味がある方、あるいは世界史を勉強していてもうすこし突っ込んで西洋について学びたい学生、あるいは欧州に拠点があり勉強をしたい方などにはおすすめできると思います。勿論国とか民族とかについて考える教材としても有用だと思いました。

 

評価 ☆☆☆☆

2021/05/25

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