この読後の気持ち良くない感触をどう形容すればいいのかはよくわからない。
でもこれは凄い作品だと思った。いわゆるエンタメが好きな方には淡々としたストーリーの展開が詰まらなく感じるかもしれない。しかし、その底に横たわる不気味さや奇怪さは私のような読者には途轍もないゾクゾクとした魅力がありました。
本作は、優秀な介護人キャシーの介護の様子と回想。
始めは過去の学生時代の回想ばかりで、しかも思春期特有の面倒なガールズグループの内輪もめみたいな話ばかりで、時に船をこぐ有様だった(まあダルい話でした)。そこで、カバーのあらすじを読んで今後もこんなだるい感じなのかと思い、確認してみるとこんな一文
「彼女の回想はヘールシャムの残酷な真実を明らかにしていく」
つまりこれは単なる純文学などではない!
さあ、そこからは緊張感をもって怒涛のスピードにて読み切ってしまいました。
そして、読後は非常に複雑な気分になった。多くの人に興味を持ってもらいたいので敢えて具体的に書かないのですが、読後に感じたのは「生命とは何か」「生命倫理とは何か」「性の倫理とは何か」等々の話です。
以前大学院で環境哲学という講義があり、人間以外の有機物について権利を認めるかという話があり、そこで「木は法廷に立てるか」という小論を読みましたが、そんなのが頭に去来しました。
おわりに
著者や新刊の本屋には申し訳ない話ですが、本書は古本屋で200円で売っていた本。そういえばノーベル賞とかブッカー賞とか色々凄い作家らしい、と。まあ200円ならいいかなと思って買った本でしたが、何ともうれしい誤算でした。英語で原典も読んでみたいと思うと同時に、著者のほかの作品も読んでみたいと思いました。こうした誤算もまた、読書の醍醐味であります。
評価 ☆☆☆☆☆
2021/05/29