昭和の時代に、『まんが日本昔ばなし』という番組がかつてありました。アニメで日本の昔話を描く、素敵な作品でした。
本作『アイヌと神々の物語 炉端で聞いたウウェペケレ』を読んで、そんな30年も40年も昔のアニメ番組を思い出しました。
子ども向けテレビ番組を思い出したからと言って、このアイヌの話が子供だましかというと、全く違います。むしろ私は本作は実に素晴らしい作品だと思いました。はい、実に面白かったのです。
一番いいなあ、と思ったのは自然との一体感。
どのお話もクマを狩る、鹿を狩る(そして必要な分だけを狩る)など狩りの話がされており、生命の豊かな自然が謳われています。日本の場合でも八百万神なんて言いますが、アイヌの世界でもクマの神、火の神、川の神等々、生き物以外にも、人間を取り囲む多くの無生物にも神を認めています。
特定の宗教にコミットせずに日本に生まれ育った私は、そうしたいわばホーリスティックな自然認識はなんとなく馴染み深く感じました。寧ろちょっと憧れました。読後早速、北海道に移住したいなあなどと口に出してみたところ、速攻で家内と娘に馬鹿にされました笑
次に、神とアイヌとの関係が妙に対等で面白かったです。
神には世の中の秩序を維持する役目があるので、何か混乱があった場合、アイヌはこれを非難するのです。逆にきちんと役目を果たさないのならば今後祀らない、あるいは他の神にチクるなどと脅したりする笑 神は神の方で、いやあこれこれの理由があってうまくできなかった、今後は気を付けるので一つまた祀ってほしい、そうすれば君の家を一生安泰にするべく守っていこうなどとうそぶき、両者互いにまとまる笑
そう、どうにもほのぼのとした関係なのです!
さいごに、死が自然に人間のまわりにある点が非常に感銘を受けました。
先ほどから何度かクマの話をしていますが、クマを狩ったら、一定の儀礼にのっとり解体等し、いわゆる死後の世界へ「送る」。場合によってはクマの側から、このままだと罪を犯してしまうから今君が私を狩って「送って」ほしい、などの会話がなされます。また、話の主人公は、大体が話の最後にその年老いて、そして教訓じみたことを説き、そして亡くなったのでした、という話の構成を経ます。
これらの描写から、アイヌでは死は当然の事として生の隣に自然に存在しているように感じました。まあ現代社会がいけないと言うつもりもないのですが、私も人生の半分以上が過ぎてますので、そろそろ死の受け入れ方も勉強しなければなあと感じてまして。自分もアイヌのような自然さで(もちろんアイヌにも個人差あるのでしょうが)いつか死を受け入れられるようになりたいなあと思いました。
おわりに
本書はまたまたKindleで50%オフで目に入ったものを衝動買いしたものでした。
アイヌという固有の文化の豊かさを改めて実感しました。また同じ日本にこうした豊かな文化が存在することを嬉しく思った次第です。調べてみると筆者の萱野氏は本作以外にも多くの作品を残されていることを知りました。また機会を見つけて幾つか読んでみたいと思います。
昔話や民話、神話などが好きな方、日本をもっと知りたい方などにはお勧めできる本です。
評価 ☆☆☆☆
2021/06/12