マネーロンダリング(以下、マネロン)というとちょっとおどろどろしい雰囲気があります。暴力団やテロ組織の資金洗浄とか、新聞やニュースでもよく目にする言葉です。
金融機関で働いている人でも、自信をもって説明できる人は結構まれだと思います。きっと概念はわかっていると思いますが、実際にしょっちゅう見るわけでもなく、むしろ日常業務ではレアキャラだと思います。
本作は、そのような立ち位置のマネロンが、具体的にどのようになされるのか、どのようにして可能か、そしてその底に流れる思想について説明してくれます。
私が理解しているところでは、マネロンとは、お金のトラックが出来なくする、という事です。とりわけいわゆる『悪いお金』(麻薬の販売代金、わいろの現金とか)を、その出自が分からないように送金とか為替を行ってゆくような行為です。
お金の流れを追えないようにするのは簡単。得たお金を常に現金で取引をするだけです。ただし、それが大金になったり、あるいは国を跨ぐときに問題になります。従い、マネロンの肝は金融機関を使って大金を送金するないし為替取引を行い、『クリーン』にすることにあります。
相変わらずよく分かっているし、アイディアがすごい
これにあたり、第三章で説明されるコルレス銀行やコルレス口座の説明が秀逸。海外送金をするときに実際の物理的なお金は動かず、帳簿上、自国と外国の間の通貨の残高を増減させるだけ、という話です。
この海外送金をオフショアバンクやプライベートバンクを使い、さらには法人口座を使う等すれば誰から誰にお金が流れたか分からなくなります。いわゆる地下銀行のアイディアも類似の考えです(全く伝わりませんね。ごめんなさい。。。)。
これ以外にも、日本で通帳で入金、海外でキャッシュカードで出金などの荒業を使えば送金なしでお金の移動が可能になります(外国人労働者が使用したり、海外逃亡犯を助けるようなケースで使用されそう)。
エピソードが面白い
さて本作のもう一つのポイントは、橘氏のビビッドな筆致です。
ライブドア事件、カシオ詐欺事件、ヨハネ・パウロ1世暗殺に絡むバチカン・マネロン事件(私はこれが一番好き)、イスラムテロを支えたマネロン銀行の話等々、話が具体的で躍動感があるということです。これは金融小説の中で筆者がいかんなく実力を発揮しているところです。
マネロンは国家への不平の表れ!?
もうひとつ。
マネロンは狭義ではいわゆる資金洗浄ですが、広義の脱税的行為もカテゴライズされます。そこで思いが至るのは、なぜ人・団体が脱税するのかということです。
もしある国で脱税をするような事案が多いとすれば、それは税金という言わば居住・登記権利等々サービス料みたいなものに対して、『高い!』と感じる方が多いということではないでしょうか。であれば、お金はその国から離れて行きそうです。企業や団体が送金コストを可能限り抑えるために、一部はグレーゾーンに陥ることも出てくるでしょう。
その点ではある意味、マネロン事件とは国家の選別の証左になるのではないかと思います。勿論、私をはじめ一般人は自分の国を離れるということなど到底できません。しかし、企業や小金持ちなどが税金(ショバ代)が高いと思ったとたん、国家の選別が始まってしまう気がします。
日本の公的サービスは税金に比して高いと感じますか?安いと感じますか?
おわりに
本作は本棚整理の一環で再読しました。面白かった。処分用の段ボールではなく本棚に戻すこと決定。
マネロンとはどういう事なのかを学べる以外に、国家とは何か、国家の権限とは何かまで考える材料にもなる良書だと思います。
評価 ☆☆☆☆
2021/07/08