海外オヤジの読書ノート

中年おじさんによる半歩遅れた読書感想文です。今年はセカンドライフとキリスト教について考えたく!

「君臨すれども統治せず」の伝統はここから。イギリス貴族の気風の歴史を面白く伝える良書!―『MAGNA CARTA』著:DAN JONES



世界史を勉強していると、やれフランス革命だ、やれアメリカ独立戦争だと勉強するのですが、その都度引用されるのがマグナ・カルタ。したらマグナ・カルタって何なの?と思い、近くの新古品を並べる本屋で本書をゲット。円換算で500円程度でした。

 


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読後の感想ですが、英語がまあ分かるという方には是非読んでほしい!と思う程なかなかに面白かったです。

 

歴史物語がおもしろい

時は昔、13世紀のイギリスはプランタジネット朝ノルマン・コンクエスト以降のイギリスがメインの舞台です。マグナ・カルタに合意したのはジョン失地王。親から土地を譲ってもらえず(次男坊)、それでもうまいこと王位につくも大陸側の領土をも失った情けない王様、といった評価が主だと思います。

本作の出色は、ジョンにとどまらず、その父ヘンリ2世あたりから家族の性格やエピソードを描いている点。お父さん、大分オラオラな征服者であったことが綴られています。お兄ちゃんのリチャード1世もそう。部下に不幸があった場合、爵位などを引き継がせる条件に相続税はがっぽりとるわ、十字軍の遠征費用もしこたま臨時課税。さらにはお隣フランスのカペー朝との争いの費用も負担させるわけです。

 

そんな伏線の中で、ジョンはババを引いたのかな、とちょっと同情もしかけましたが、ここから描写の風向きが変わります。いやいや、ジョンも空気読みません。部下の奥さんや娘に手を出すし、カンタベリー大司教の叙任に際して、ローマ教皇インノケンティウス3世と衝突、それでも折れず、イギリスは聖職者がスト(聖務停止)、ジョンも破門。ここまで空気を読まないと清々しささえ感じてしまう。と、このような歴史が生き生きと描かれています。

 

挿絵もあるのでちょっと分かりやすい

次に本書の良いところなのですが、挿絵と写真

それはあたかも博物館に居るかのような気分になります。
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幾つかは金を図る物差しとか、ジョン王の刻印とか、なんか社会科見学で見てもへぇーで終わるようなものもあります。ジョン王の絵とかインノケンティウス3世の絵とかも載っています。マグナカルタの写本とかもありました。そうそう、最古の写本は世界で4つ残っているらしいですが、1215に成立したものですから、ねえ、かれこれ800年ですよ。ラテン語読めずともちょっと実物見たくなります。

 

英語がなかなか美しい

そしてもう一つ述べておきたいのが、英語が美しいこと。

これは大分感覚的な話ですみません。簡潔な文法で分かりやすいのですが、重厚感のある美しい英語であるように感じました。その分単語も難しいので(だって戴冠coronationとか聖別する・油を注ぐanointとか普通知らないし)、そこはちょっと根性いりますが、声に出して読んでも気持ちいい。俺美しい英語喋れるぜとつかの間の勘違いを味わえます。ただ、一部英国の地名とか人名は難しかった。フランス語も混じってますし。

 

おわりに

ということで、本作、マグナ・カルタ前の状況、マグナ・カルタの成立、そしてマグナ・カルタの後世への影響、の3つがきちんと学べる歴史書となっております。10章構成で写真や挿絵込みで117ページの短いもの。もちろんマグナ・カルタのラテン・英語訳とも全文載っていますが、私のような変態以外にはあまり興味はないでしょう(私もちょっとだけですよ、興味)。あと巻末にテムズ川河畔でジョン王のマグナ・カルタへの押印の承認者となったという25人のプロフィールも簡単に紹介。簡単な年表も。

 

想像するに、英国の中学生くらいに向けた歴史・法学入門のような本という位置づけなのだと思います。

中世英国史に興味がある方、法学や自由の概念の礎に興味のあるかた、ノンフィクションの英語にチャレンジしてみたい方などにお勧めできる本だと思います。もし電子版で売っていても絶対紙の本で買いましょう。

 

筆者に興味のあるかたは、Netflixで彼がガイドをしている”Secret of Great British Castles” という超絶地味な番組がありますので、よろしければ。

 

評価 ☆☆☆☆

2021/07/27

 

 

対岸のフランスでのカペー朝の流れは佐藤氏の著作がお勧め。

lifewithbooks.hateblo.jp

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