海外オヤジの読書ノート

中年おじさんによる半歩遅れた読書感想文です。今年はセカンドライフとキリスト教について考えたく!

自由主義の成立は中国から!?今後の日本を考える良書―『中国化する日本 日中「文明の衝突」一千年史』著:與那覇潤


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購入して通読二度目。相変わらず面白い。

 

lifewithbooks.hateblo.jp

 

 本作は歴史書の顔と日本論の二つの顔を持つと言えますが、そのどちらの切り口も非常に興味深いものだと思います。

 

中国化とは自由主義のこと!?

史書としては「中国化」の概念の導入。

宋代以降の中国にこそ自由主義の形が形成され、皇帝による支配と理念の体現(中華思想朱子学)および活動の自由というセットを提示。自由主義はこの時すでに完成していると言えます。アメリカで言えば、理念としては「自由」、そしてあとは個人の競争(自由主義)でどうぞと。現代中国は政治としては共産党一党独裁も、経済活動は自由主義。とこのような感じ。政治的に逆らわない限り経済は自由、これぞ自由主義

 

中国は隋や唐では皇帝もおり科挙もありましたが彼らは中心ではなく、実質は門閥貴族の支配であったとされます(日本だと平安時代藤原氏のイメージでしょうか)。この体制は宋代に入り大幅に変化、強力な皇帝と彼に面談(殿試)を受けた科挙合格者(官僚)たちによる独裁支配により権力の掌握が完成します。所謂貴族的既得権益を守るコネ的地域社会を壊し、マーケットでの流動性や才覚を重視した社会が志向されます。

 

日本:エド的固定的村社会への郷愁から逃れられない

これに対し、日本は反藤原氏としての平家による「中国化」が潰され、鎌倉幕府によるムラ社会化・封建体制が構築、江戸時代にその頂点を見ます。そこでは封建制が利き、褒賞としての土地・地位は固定され、武士は名誉はあるが困窮し、商人は金はあるが名誉がない、農家の次男坊以下は土地ももらえず結婚もできずワーキングプアとして都市へ流れ込む、などの総不満社会であったとします。我々がイメージする江戸文化が咲き誇る素敵な時代、とは全く違いますね。

 

そのため明治維新は農家や武家の次男三男が中心となり勃興します。筆者はこうした不満分子を「パンクロッカー」に例えています。捨てるものがない向う見ずな不満分子ですね。維新以降、確かに自由な社会になりますが、当時はセーフティーネットもなく、これはこれで別の不満分子も生まれます。不満分子は江戸時代の守られた固定的な社会を志向します。

 

その後、江戸時代への揺り戻しが社会主義の隆盛とともに現れたり、日本国民という理念に訴える軍国主義全体主義などを経て先の大戦敗戦終了から現代へと歩を進めます。

 

今後日本はどうあるべきか

この近現代の中途半端な日本社会の特長を筆者は「ブロン」と呼び、江戸的封建社会自由主義社会の「いいとこどり」の失敗バージョンとします。「わるいところどり」ですね。言ったら、何かあるたびに空気を読めと言われる割に、人が困ると助けもなく自己責任とするような社会でしょうか。

 

筆者は中国化(自由主義化)は避けられないとしつつも、どのような社会が良いのかについてはハッキリと明言していないように見えます。一つの策としてベーシック・インカムに言及していますが、ねじれた年金制度の着地点としてはありうる案だとは思います。

 

おわりに

改めてこういう作品は好きです。

斬新なアイディアと多くの文献への言及は非常に参考になります。他に読んでみたい本が沢山できました。書き方がシニカルなのが多少気になりますが、歴史をしっかり勉強せえという毒もあるのでしょう。また、歴史に依拠したうえでどういう社会が良いのかを考える議論を喚起したい、という想いもあるようです。

 

歴史好き、政治好き、議論好き、将来の日本に漠たる不安のある人等々には是非読んでほしい一冊です。私もまた時間をおいて再読したいと思います。非常に知的ドライブ感を感じる作品であると思います。

 

評価 ☆☆☆☆☆

2021/07/31

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