海外オヤジの読書ノート

中年おじさんによる半歩遅れた読書感想文です。今年はセカンドライフとキリスト教について考えたく!

人間の認知・理性の「くせ」が分かる本 ― 『予想どおりに不合理』著:ダン・アリエリー 訳:熊谷淳子

先日著者の『ずる』という作品を読みました。人間が実に巧妙に自らを正当化してずるをする様子が描かれており面白く読みました。

 

lifewithbooks.hateblo.jp

 

 

今回読んだ作品は上記『ずる』と一緒に買っておいた作品。『ずる』よりもちょっと分厚めだったのですが、はっきりいってこっちの方が面白かった!!

 


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非常に面白く読めました。彼の作品は二作目ですが、どちらも人間の非合理を明らかにしている点が非常に興味深かったと思います。

 

全部で15章もありなかなかのボリュームなのですが、私は特に『相対性の真相』(1章)、『扉をあけておく』(9章)、『価格の力』(11章)が気に入りました。

 

第1章は人間の認知力と比較についての話です。

冒頭で雑誌「エコノミスト」の勧誘画面の例を出しています。この画面は紙版($59)とWeb版($125)の二択の申し込み画面なのですが、これだと人は迷ってしまうそうです。そこで紙版+Web版($125)の選択肢をつけたすことでWeb版($125)との比較ができるようになり、紙版+Web版($125)へ購入誘導ができるというもの。本来は紙だけで十分である人も、ふらっと見ると紙版+Web版($125)へ誘導されてしまいます。同様に、コンパに行くときに自分より容姿の劣る仲間を連れて行き、自分を選んでもらうという姑息な話もありました。

人間は絶対的な基準を持ちづらく、比較可能な対象を発見してしまうとそこで優劣を選んでしまうようです。

 

第9章は将来の選択肢(オプション)の話。

一定制限時間内に3つの扉をクリックし、より多くの得点を稼ぐ実験を行う。ここでどの扉に高い得点が得られるかは分からない。そして12クリックするうちに一度でも扉をクリックしないとその扉は消えてしまう。ここで多くの学生は「高得点の扉かもしれない」という可能性を維持するために右に左にクリックし、結果としては一つの扉をクリックし続けるよりも得点が低くなったという。

これは「あるかもしれない可能性」を維持するために時間を浪費することを暗示しています。私のように出世しないとわかっていれば社内の付き合いなどは無視するのも手ですが、それでも一縷の望みをかける人は無駄?な付き合いや政治に時間を使うことがあります。子どもの可能性を考え多くの習い事をさせ、大切なふれあいの時間を無駄にすることにも当てはまります。

人間の人生は選択の連続ではありますが、オプションを維持するために時間を使い、選択と集中どころか大切な時間を失ってしまう危険性が指摘されています。

 

第11章は人の信念の力の話。

とある鎮痛剤のプラセボの実験。先ずショックを与える。次に鎮痛剤を与えた後にショックを与える。大多数が鎮痛剤の効果を感じる(ちなみにこの薬はただのビタミンC)。そして今度は通常価格(1錠$2.5)から$0.1へと値下げしている旨を伝えたのちに投薬し、ショックを与えると、効果を感じる人の割合が大幅に減ったという。

つまり、そもそもの効果も、またその後の値引き後の効果の減退もすべて人間の思い込み・信念の力がもたらしたことになる。

これ以外にもプラセボの手術で効果が上がった症例の話が複数例示されていました。つまり、実際の効果云々はさて置き、どれだけ患者が医術ないし医師を信じられるかに効果がかかっていることが暗示されます。逆に言えば効果のある治療でも、医師に患者を信じさせるだけの人間力がないと全く効果を持ちえないともいえるかもしれません。

 

このような発見は、当然のことながら悪用ができる一方、これを知ることで人がより良い選択や行為を取ることができるというのが筆者の主張です。

 

おわりに

人間の認知力・感じ方の「くせ」が分かる非常に面白い本であったと思います。

一方一抹の不安を感じるのは、めざといマーケターたちはこうした研究を利用し、よりよく秘密裏にモノの購買を促そうとする、と想像できることです。

6章の性的興奮についての考察で、穏健かつリベラルな最高学府のナイスガイ達も性的興奮を経ると高確率で暴力的な想念にかられてしまうことからも、いかに人間の理性が脆く崩れ去ることが分かります。つまり、「私は大丈夫」ということはないのです。

 

そうしたことを考えると、寧ろ読後は重たい感覚を覚えました。

 

人間心理、マーケティング等に興味がある人にはおすすめできる作品です。

 

評価 ☆☆☆☆

2021/09/12

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