海外オヤジの読書ノート

中年おじさんによる半歩遅れた読書感想文です。今年は会計と英語を勉強します!

リベラル願望に潜む差別意識、でも大家族パーティーやってみました! ― 『IT’S ALL RELATIVE』著:A.J. JACOBS

以前米国人の知人と話をしていた時、私が思想系が好きだと言うと彼が教えてくれたのがJames Altucherです。

jamesaltucher.com

このJamesは、超ではない有名人をゲストに呼び話を聞くというPodcastをしており、私も通勤途中で聞きながら面白そうな人がいたら著作をWish Listに入れたりしていました。James自身はちょっと下品?というか微妙に薄っぺら目な感じなのですが、ゲストは元米最高裁判事とか元宇宙飛行士とかが来たりしてなかなかに人選が興味深いのです。そうした中で発見したのが本作の著者のA.J. Jacobsです。

 


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筆者のA.J. Jacobsはユダヤ系の米国人ライター。体験型?ライターとでも言える方で、本作以外にも“The Year of Living Biblically, The Know-It-All: One Mans Humble Quest to Become the Smartest Person in the Worldなどを書いている方。聖書通りに生きるなんてちょっと面白そうじゃないですか(翻訳は出ているようです)。

 

 

 

で、本作ですが「人類皆兄弟!」と言わんばかりの大家族パーティー(family reunion)をやってみた、と言うものです。

 

軽くあらすじ

事のはじめは、とある一通のメール。ライターである彼のもとに遠い親戚だというイスラエル人からメールが届く。確かにユダヤ繋がりあるかもだけど、どうせサギか何かと思いつつも裏をとってみると確かに遠い親戚らしい!そしてその後にお金の無心が・・・ない! 彼はここで家族の血の繋がりを喜び、不思議な親近感を感じ、その後家系図作りに夢中になり、大家族会(family reunion)をやりたい! しかもギネス級のものをしたい、と思い至り、計画に邁進し始めます。

 

ナイーブで危なっかしいけど、根が素直な筆者

この計画の中で彼は自分の至らなさやを含めた色々なものを学んでいきます。

家系を辿っていくうちに、セレブとも繋がりがあることが分かったり、逆に過去の犯罪者とも繋がりがあることが分かったり・・・。親が2人、祖父母が4人、曾祖父母は8人ですから、こうやって上流に登ってから下れば、たしかに誰かしら有名人に突き当たります。

 

こうした血縁を辿る中での一番の問題は、プライバシーの問題でしょう。筆者の先祖でも重婚で捕まった人や、禁酒法時代に酒屋をやっていた人などがいたり、またそうした記事がネットに出回っていたり。大家族会はいいけど、過去の親族の名前を出すのを嫌がる親族も居たりするわけです。

日本でも加害者家族はどこまで責任を負うべきかという話を聞きますが、加害者の孫は?ひ孫は?などと辿っていけば、今生きている我々はどこまでの先祖の責任を負うのかという疑問に至ります。もちろんこうした問いへの答えは簡単にはつかないわけで、だからこそ先祖の情報というのもプライバシーと捉え表に出したくない方も居るわけです。善意で大家族会を開きたいと招待しても逆に迷惑になりかねません。

 

他方で、過去の血統をことさらに強調したり、セレブ先祖と繋がりがあると標榜することは優生学にもつながりかねません。筆者はセレブ親戚をだれか呼ばないとスポンサーがつかないと考えて様々な方面に声掛けするのですが、奥さんから「そういうのってそもそも「人類皆兄弟」で皆と平等につながりたいという考えと反するんじゃない?」とたしなめられたりしています。

 

筆者は一貫して生物学的に太古の昔まで元を辿れば皆兄弟(遺伝的に)!だからどんな形でも家族である!LGBTも家族、養子だって家族!という非常にリベラルな姿勢を取ろうとします。だけど、年老いた自分の家族のために家族会では専用にテントを張ろうかなとか(ある意味えこひいき)、セレブ親族を呼びたい(同じ親族なのに扱いが違う)とか、ついつい参加者を平等でなく取り扱いそうになり、そのことを奥さんに指摘されています。でもきちんと自分を修正して、皆が平等な会を最終的にやり遂げたのは素晴らしいと思います。

 

英語

英語は非常に現代的に感じました。文法は全く難しくありません。ただ単語は一見単純そうに見えてキチンと意味を把握しないと道に迷います [screw up (v)ドジる、butter up (v)おだてる、freak out(v)不安にする、shutterbug (n)カメラ魔、写真ずき]。全体にユーモアにあふれた文体ですので楽しく読めますが、単語づかいにはきちんと教育された印象を受けました 。

 

おわりに

一冊通して家族とは何か、血縁とは何かを考えさせられる、それでいて飄々としたユーモアの溢れる内容の作品でした。とりわけ筆者は、自分をリベラルと認知したい思いと、無意識に持っている差別意識を明らかにするなど、その素直さに人間として学ぶものがあるなあと感じました。

また本作、一見すると下らない「~してみました」的企画に見えるのですが、これを理解して応援してくれる人が一定数居て、こうやって会も本もキチンと世に出ている点に、私はアメリカの懐の深さやダイナミズムを感じずにはいられませんでした。

 

肩の凝らない本ですので、多少英語に自信がある方には是非読んでみてほしいなあと思いました。

 

評価 ☆☆☆☆

2021/10/03

 

 

 

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