そんなの想定して意味あるのか?という想定。
10mを越す津波がやってくる。原子炉がメルトダウンする。近所の都市銀行が破綻する。
起こる前はあり得ないと考えていたことが起こる。これが現実です。
その一見起こり得ないこと、「例外的だが起こりうること」を想定して備えなさい。これが極々簡単に言えばストレステストの意味合いだと思います。
本作はそのようなベース思想のもと金融機関で行われているストレステストについて、歴史的経緯と思想、そして実務的要点について詳述しているものです。
基本実務家向けの本ですが、、、
実務に関わっていないのでそこまで大きな関心はないのですが、金融機関のFinancial Statementを見るとリスクの種類は3カテゴリーに分かれており、Credit Risk(信用リスク), Market Risk(市場流動性に関するリスク), Operational Risk(これは正直よくわからん)とあります。これらについてはVARとかシナリオ分析とか包括的に記述があります。きっと関連業務の方には大いに役立つのだろうと思います。
関わらなくても「なるほど」と思える箇所も
そんな中で私が読んでいて感銘を受けたのは当該トピックを包括的に述べている第1部「ストレステスト総論」。
とりわけリーマンショック後の2008年7月にIIF(金融機関の国際的業界団体)によって書かれたレポートのサマリーは面白かった。リーマンショックを振り返り、「リスク・マネジメントにおける経営者の責任が明確になっていなかった」「ビジネスラインから独立したCRO(Chief Risk Officer)がリスク・マネジメントにおいて、十分な役割を果たしていなかった」「ストレステストが機械的に適用され、十分に分析されておらず、経営の意思決定に織り込まれていなかった」等々。あれから十数年経った今でもしばしばみられる状況のようにも思えます。
私も、中央当局や本部からのリクエストだとか何とか言われ、巻き込まれてやっつけ仕事で数字を作って出す場合があります。ただその際にはもうやらされ感しかないのですが。でも過去の経緯をこうして知れば自分に降りかかる業務の意味合いについても意義を感じられるものです。
シナリオ作りにはグレーな部分も残る
また、ストレステストのシナリオ設定にも議論の余地が多いと感じました。欧米では当局シナリオに基づき各金融機関が同一条件でストレステストを走らせるということですが、これだと各金融機関独自のリスクプロファイルの差異から生まれる重要なリスクがどうしても軽視されてしまうと指摘があります(第1部第3章)。また独自にシナリオ設定するとして、例えば政策の失敗を想定する(一例として長期金利の上昇があげられている)ことの困難さが述べられています(第1部第3章)。これも当局規制の下にある金融機関にあって忖度が働きそうな箇所であると感じました。健全な経営を目指すばかりに当局との間に緊張を孕みうる可能性があるという指摘です。
おわりに
こうして考えると、ストレステストの根本思想は極論すれば経営そのものであるように感じた。つまり「どこまでのリスクシナリオを想定して、どこまでのリスクを取っていくか」ということ。金も時間も人員も限られる中、当局規制に従うのは当然の事として、それ以上にどこまで踏み込んでシナリオを想定し方針を定めるのか。これは経営者のみならず組織を束ねる者がその組織の大小関わらず本来的には考えるべき(考えた方がよい)ことであると感じました。実際には難しいのだろうけど。
評価 ☆☆☆☆
2021/10/22