海外オヤジの読書ノート

中年おじさんによる半歩遅れた読書感想文です。今年はセカンドライフとキリスト教について考えたく!

十字軍行軍の徒花と消えた特殊法人 ― 『テンプル騎士団』著:佐藤賢一

 

世界史の講義で、講師が「テンプル騎士団フリーメイソンの源流であるという噂も」と聞き、その神秘性に惹かれ、何か新たな事実が分かるかも?と本書を購入。

 

学生時代は中世というのは一番つまらないし中世を研究する人たちの気が知れない(ごめんなさい!)と考えていましたが、50近くになって私、最近中世がブームっぽいです。

 



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世界史を勉強していると、宗教騎士団というのが出てきます。主に三つ取り上げられることが多いのですが、ヨハネ騎士団(十字軍+病院系)、テンプル騎士団(十字軍+護衛系)、ドイツ騎士団(十字軍+護衛系、のちに開拓系)というイメージでしょうか。

 

中世において、王家、教会という二大勢力がある中、特殊な立ち位置が興味深い団体です。本書はこうした騎士団のうちテンプル騎士団の歴史・概要をまとめたものです。

 

テンプル騎士団のすごいとこ

中世ヨーロッパの封建制の下では戦争も契約に縛られ、領地を守る戦争でさえ兵隊(農民ですが)の参加は日限が限られる、場合によっては二者にまみえることも可ということが言われます。つまり領主は自前の勢力すらあてにすることができませんでした。そこにあって、テンプル騎士団という言わば武闘専門職・常備軍であるところに、この団体の画期があります。

 

十字軍での戦闘やその後の巡礼の護衛・防衛を生業とするのですが、驚くべきはその特権。寄付を受け入れ、領地を運営する。さらには効率化のために既存領地の周辺を買い増したり、遠隔地と交換したりしたそうです。もう商人やな。
しかも所得は免税らしいです。まんま宗教法人やな。

 

さらに欧州各地に寄付地の拡大と共に管理する支部が増え、支部をつなぐ道も整理されていく。となるとイカツイ彼らは運送業としても頼もしい。

 

さらにさらに、十字軍というスケールの大きい活動となるとお金のやり取りが必要。かといって兵隊の給与として重たい硬貨をいちいち持ち運ぶことが難しい。するとテンプル騎士団のネットワークは今度は銀行として機能する。パリで預けたお金をアッコンで引き出すといった芸当も可能だったらしい。更には足元を見つつも金も貸していたそう。あの失地王ジョンもテンプル騎士団から借金したそうな。

 

エクセルの無い時代、多国間に渡る資産の管理を表計算ソフトなしにしていたとなるとどれだけ重労働だったのかと空恐ろしくなりまが。

 

おわりに

最終的には、この独自の勢力を誇った騎士団も14世紀にフランスの王朝に潰されてしまいました。やはり王家からみて、そしてローマ・カトリック教皇から見ても、このような超国家的存在は目障りだったことは難くありません。

 

本作を読んでいて、テンプル騎士団は超国家的という面で多国籍企業と似ているかな、とちょっと思いました。ただ、現代の企業(特に米国)はロビー活動等で政治権力を抱きかかえながら膨張しているので、ちょっと性格が違うかもしれません。

 

やはり十字軍の徒花として散った存在だったと言えるかもしれません。ちなみに筆者によるとフリーメイソンのもととなったというのは事実ではないようです。

ということで、ちょっとしたウンチクがたまる歴史読み物でした。

 

評価 ☆☆☆

2021/11/25

 

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