キリスト教って何なのか?知っているようでいまいちよくわからない。ちょっと勉強してみたい。そんな方は結構いるのではないでしょうか。
私の場合、興味の始まりはユダヤ陰謀論(笑)。そして世界史で十字軍やビザンチン、そして米国史を学ぶうちにキリスト教についても興味がわき、さらに文学作品を渉猟するにあたり、どうもキリスト教内部でもいろいろあるらしい、と気づきはじめました。
キリスト教を包括的に学ぶのに何かいい本はないかとネットで調べていたら、とあるサイトでお勧めにあったのがこちらの作品。
新教・旧教ひっくるめて、すべて説明!
で、読んでみましたが、非常にわかりやすかった。この人は一体何者か?とむしろ筆者の素性が気になるくらいよくご存じで。
特徴
一番の特徴は宗派についての概要を具体的かつ簡潔かつ網羅的にまとめている部分。具体的に書きますと、東方正教会、ローマ・カトリック、ルター派、聖公会(アングリカン)、改革派・長老派、改宗派・組合派、バブテスト、メソジスト、ペンテコステ派、メノナイト系、クエーカー、ユニテリアン・ユニバーサリスト、救世軍、福音派、その他いわゆる新宗教に分類されるような宗派も。筆致も柔らかく、詳しい友達に教えてもらっているかのようなフランクな語りで、直観的なわかりやすさがあります。いろいろ違いがあり、また色々互いにいがみ合ったりもしてるらしく、そういうこともきちんと教えてもらえます。
そのほか、典礼の服装のイラスト(どうやらご自身が書いていらっしゃる様子)やキリスト教の習慣についてとか、シスターや牧師さんとのインタビューとか、なかなかお目にかかれない方々の経験談も非常に興味深いものでした。
ややトリビアめなお話
読んでいてへー、と感じたのはオートミールの話。よくある”Quaker Oats”は別にクエーカーが創始者であったわけではなく、「純正品にふさわしい」として、いわばイメージとして採用されたとのこと。つまりクエーカーって、誠実・純正・嘘偽りのないとか、そういうイメージなのでしょうね。
また東方正教会の記述にこんなのがありました。
「地域や民族全体、あるいは家族の宗教という側面があるため、自然体の信者が多い。信仰とは頭だけのものではなく、生活そのものともとらえ、完成を駆使して神に向き合う。(P.49)」
わたしはこれを読んでいて、なんだかアイヌのことを思い出しました。あまねく自然を調和的に司る神。神がリズムを刻むことで人間も生かされている、というようなホーリスティックなテイストがキリスト教にもあるのかもしれないとふと感じた次第です。
おわりに
以前世界史の講義で、世界人口の約3割がキリスト教徒という話を聞きました。世の中グローバル化だとかコミュニケーションとか色々言う割に、世界の人々のバックグラウンドについての理解が足りないんじゃないかと自省しております。
実質的無宗教の方が太宗である日本にあっては他宗教の理解はそこまで必要ではないかもしれません。しかし、私たちもひとたび日本国外へ踏み出せば、文学作品でも多くの宗教的バックグラウンドをもとに書かれた作品、また実際に多くの宗教者・宗教家に出会うことになります。
そうした自分とは異なるものの理解への一歩として本書は非常なる有用さを持っていると断言できる本でありました。
評価 ☆☆☆☆
2021/12/25