海外オヤジの読書ノート

中年おじさんによる半歩遅れた読書感想文です。今年はセカンドライフとキリスト教について考えたく!

社会での不正にどう向きあうか ― 『To Kill a Mockingbird』著:HARPER LEE

公民権運動を経て黒人差別が撤廃されてからまだ100年もたっていないと聞くと、私なぞはちょっと驚いてしまいます。LGBTQなど多くの性的な差別すら解消されようとしつつある昨今に対し、自分たちの父母ないし祖父母が若かったころ、アメリカではいまだに堂々と黒人差別がまかり通っていた。そして本作は、そのような差別に対する善良な人々の対応を描く素晴らしい作品でありました。


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あらすじ

本作の語り手であるScoutは兄Jem、弁護士である父親Atticus、通いのお手伝いのCalpurniaとアラバマ州のMaycombという田舎町で生活をしている。とある日、父親は公選弁護士として黒人被疑者のTomのレイプの罪を弁護することに。子供たちがこっそり潜入し裁判を見届けるなか、Atticusは証人たちの偽証を暴くも、最終的にTomは有罪判決に。そればかりか…。

 

みどころ

で、本作の最も素晴らしい部分はやはりそのテーマではないかと思います。私は個人的には本作のテーマは『社会の恥部にどのように対峙するのか』という事だと考えています。具体的には、黒人への偏見ということになります。レイプ犯被疑者のTomは推定無罪ともならず偏見のもと有罪に。小学生ならがこの裁判をこっそり目撃したScoutと兄のJemは当然のことながらショックを受けます。こうした社会悪に対する父親の冷静な態度が秀逸でありました。

“but let me tell you something and don’t you forget it -- whenever a white man does that to a black man, no matter who he is, how rich he is, or how fine a family he comes from ,that white man is trash. ” (拙訳) ”だけどこれだけは言わせてほしい、そして忘れてほしくない。黒人を騙そうとする白人が居る時は、いつだって必ずその白人はクズだ。それがだれであれ、金持ちであれ、いい血筋であれ、関係はない。”(23章)

 

この判決がおかしい事を理解している近所のおばさんMs.Maudieも、そもそもAtticusが公選弁護人に選ばれたことの意味を子どもたちに諭します。本来選ばれるべきは経験の浅い弁護人であったのに、他でもない公正なAtticusが弁護人として選ばれたことは、つまりTomの無罪を陪審制というスキームの中で実現できるよう取り計らった人がいるということです。

最終的に努力叶わずTomは有罪になり、そして死んでしまうのですが、そうしたことを含め、社会の良くない点を認知し、その仕組みの中でよりよく機能させようとする誠実さには心打たれます。『悪法も法なり』と毒杯をあおって冤罪判決に従って死んだソクラテスを想起させるかの遵法精神です。

加えて、社会の矛盾をどう子どもに教えるのか(黒人差別の現実とキリスト教の平等理念、さらに不公正な判決)、偽証しようとした同じコミュニティの構成員を悪く言わないように諭すなど、その人の立場や境遇を推し量るAtticusの度量の広さは私には素敵に感じますが、恐らく多くの人は賛否両論あるのではなかろうかと感じました。

そうした意味で、本作は、色々な倫理的状況が設定されており、議論の例題として非常に良い出発点になりうると感じました。

 

英語は癖強い

英語は非常に癖のあるものでした。be動詞のスラングであるainは多用され、’で省略された表記や省略した音・癖のある音をそのまま英語表記してあったりで一部は非常に読みづらいと感じました。前半に多い米国南部の四季の移り変わりの描写は、確かに美しいのですが、読書速度を大分落としました。他方、中盤以降は裁判でのやり取りはじめ展開が早く、多少の難しい単語も気にならずに割と早く読み進められます。

 

おわりに

実に面白かったです。米国では親が子どもに読ませたくない本のランキングに名を連ねる常連作品だそうですが、私は寧ろこれを子どもたちに読ませてどう感じるか聞きたいと感じました。そして皆さんにも是非読んでいただき、その意見や感想を聞きたいとも思いました。日本では『アラバマ物語』という名前にて翻訳されているようです。

そういえば、結局原題”To Kill A Mockingbird”の意味が分からなかった。美しく鳴くだけの小鳥を打ち落とす合理などはないという記述はありましたが、黒人を小鳥になぞらえていたのか。。。まあそんなのが分からずとも120%楽しめる作品です。

 

評価 ☆☆☆☆

2021/12/30

 

『最も抗議・異議が寄せられた本ベスト10』についてはid:AgentScullyさんのエントリを参考にさせて頂いております。本作の米国での反応もまた興味深いものがあります。

blog.the-x-chapters.info

 

 

To Kill a Mockingbird

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