海外オヤジの読書ノート

中年おじさんによる半歩遅れた読書感想文です。今年はセカンドライフとキリスト教について考えたく!

一見お下劣なYA本も、読後に強い苦み ― 『The Absolutely True Diary of a Part-Time Indian』著:SHERMAN ALEXIE

 

id:AgentScullyさんのブログで、全米の『最も抗議・異議が寄せられた本ベスト10』なるものを目にして以来、これらが一体どういう本であるのか読んでみたくてウズウズしておりました。

 

blog.the-x-chapters.info

 

最初に”To Kill A Mockingbird”(邦題『アラバマ物語』)を読んでみたところ実に面白く、これが2作目のチャレンジです。

 

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ざっくりとあらすじを言えば、居留地で悶々と生活する中学生の主人公Arnoldが、勇気を出して白人だけの高校へ転校・進学し、カルチャーショックや地元での摩擦、あるいは近親者の死を経て成長してゆく、というお話です。

ん?これってWonderに似ていないか

前半はややお下劣な言葉が満載も、エンディングがなかなか感動的な自己陶冶系小説でした。ただ、類似の作品Wonderの二番煎じに思えたのも事実。

 

Wonder

Wonder

Amazon

 

 

Wonderでは先天性の口蓋裂症の男の子が家庭学習から一転、中学入学間際に一般通学へと変更、学校生活での摩擦を乗り越えてゆく話でした。一方本作は、居留地という狭い世界で、しかも飲んだくれやアル中や暴力に囲まれた環境で育ったインディアン少年が、白人のみの学校へ転校したことで新たな世界観、価値観を得、成長していくというものです。どちらも筋が似通っています。

もちろん違いもあります。Wonderがミドルクラスの割と裕福な白人家族の話である一方、本作では、居留地の、解決しようのない貧困という現実がハッキリと描かれます。私は居留地 Reservationというと、もっと手厚く保護され、補助金はじめ大学進学などについても白人より優遇されているイメージがありました。真実はわかりませんが、少なくとも物語中ではむしろ貧しく、そしてその苦しさから安酒に溺れるアル中だらけの悲惨な環境として描写されています。こうした環境からか、物語では祖母が飲酒運転の車にひかれて死亡、姉は自宅兼キャンピングカーでパーティーをしたところゲストがガスに火をかけたまま忘れて帰り、焼死。父親のベストフレンドEugineは酔っぱらった友達により酔った勢いで射殺される。さらに撃った友人は刑務所で自殺。とにかく命が続かない。

読後の後味をさらに苦くさせるのが筆者のあとがき。私、てっきり本作は物語と思っていました。が、筆者は正真正銘のインディアンで、実話に基づくもフィクションとしてこれを書いている模様。作中で主人公Arnoldのベストフレンドであり転校後は反目しあうRowdyも、Randyという現実の友人をモデルにしたそう。しかもその現実のRandyは晴れた日の見通しの良い道路を飲酒運転し、対向車線に突っ込んで亡くなったそう。彼はシートベルトを着けず、酔っぱらいながらスマホをいじっていたと想定されているようです。ちょっとワルだったり欠点があったり、でも心根は優しかったりする友人たち。大切だからこそ彼らの自暴自棄や無謀を直してくれるよう頼むも、絶対に言う事を聞かない彼ら。そんな頑固さに対する筆者の苛立たしさや悲しさが漂うあとがきは非常に重たいものでした。

 

英語汚い!ゆえに反対される?

さて英語ですが、YA向けを強く意識しているのか、或いはこれが若者言葉の常なのかわかりませんが、きれいでない言葉のオンパレードで、非常に勉強になりました。tonto (n) 気違い, wuss (n) 臆病者, boner (n) いわゆるイチモツ, flip off (v) 中指を突き立てる, homophobic (j) ホモ嫌いの, fag (n) オカマ、などなど。これ以外にもまあ自慰行為の話なども出てくることもあり、下ネタが原因で抗議が来るのならば分からなくはないと笑

 

おわりに

読み始めは、「これは小中学生向けのただのYA本だわ」と失敗した感が強かったのですが、最後の数章とあとがきでひっくり返されました。綺麗に言えばこれも多様性であり自由であり、またそれらの代償なのかもしれませんが、世界大国たるアメリカの暗部を覗いた気分になったことは否めませんでした。

 

評価 ☆☆☆☆

2022/01/14

 

 

アメリカの暗部というと堤氏のルポは結構インパクト大。

lifewithbooks.hateblo.jp

 

戦争での行き過ぎを米国人が反省するという珍しい本。本国ではどのような評価なのかなあ。

lifewithbooks.hateblo.jp

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