海外オヤジの読書ノート

中年おじさんによる半歩遅れた読書感想文です。今年はセカンドライフとキリスト教について考えたく!

海外生活模様は楽しく読めるも、そこまで絶賛するかなあ - 『サラバ!』著:西加奈子

4か月に一度くらいのペースで日本に居る息子に古本を送ってきてもらっています。本作も海外より遠隔操作でブックオフで買っておいたもので、私のお気に入りの西加奈子氏の直木賞受賞作品。2015年の本屋大賞第2位とのことです。

 


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で、読後の印象ですが、「そこまでか!?」というのが率直な感想です(ごめんなさい!)。

 

あらすじ

主人公圷歩(あくつあゆむ)は4人家族。背の高いハンサムな父、いつも若々しい美しい母、父親に似てしまった猟奇的な姉、外面は母親似の空気を読むやさおとこ風の僕。家族は海外駐在を繰り返し、テヘラン、日本、カイロ、日本と渡り歩く。その個性故か、カイロからの帰国後両親は離婚、姉はイジメの末引きこもり、そして「僕」は周囲の顔を伺いつつ、波風が立たないように生きてゆく。

 

海外駐在あるあるの数々

今回の作品で特徴的で面白かったのは、主人公圷(あくつ)家の海外駐在生活です。やはり日本では滅多に目にしない生活模様などは非常に興味深いものです。

例えば主人公たる圷歩(あくつあゆむ)がテヘランの病院で生まれるシーン。日本では自然分娩が未だに一般的だと思いますが、テヘランでは帝王切開がメインで出産が計画的に行われるとか、住居も日本と比べて豪華で広い家に住めるとか。場合によってはお手伝いさんなどを雇うことができるとか。そのお手伝いさんとの関係がどうにも下手(したて)に出てしまって難しいとか。ついでに言えば駐在生活は金がたまるとか(私が言っているんではなくて作品で語られているんです)、多くの「駐在あるある」が語られていました。

 

カイロの日本人学校の話も結構あるあるかもしれません。日本人学校という守られた空間には他の駐在の子どもがおり、別れが必然であったり(みんな転勤していきますからね)、一歩外にでるとローカルの子供たちがたむろしており、貧富の差や文化の違いを子どもながらに感じる点など。

 

また、本帰国となった駐在の子供たち(いわゆる帰国生)が公立校で馴染めなかったりすることも、本作の主人公の姉(この場合は極端ですが)のようによくあることだと思います。私は駐在ではなく単に海外に住んでいるだけですが、海外だと子ども同士の世界が作られるのがずっと遅く、子どもは家族の世界に属している時間が長いと思います。結果として友達同士の雰囲気を読むというよりも、自分の思ったことをはっきり言う子が多く、ストレートな物言いに総スカンを食らう子どもが結構いるのかなと想像します。

 

後半から失速?

さて、前半はかくも色彩豊かな海外生活と帰国後の不穏な家族生活が、主人公たる歩(あゆむ)の素朴な目線で描かれます。歩が中学・高校までが前半部です。

で、後半は歩が大学生として放蕩?生活にうつつを抜かし、20代30代にバラバラになっていた家族と30代半ばになってようやく和解していく、というような流れです。

正直に言うと、後半は個人的にはイマイチに感じました。前半と比べてエピソードの描写が粗く、展開が性急に感じるのです。また精神的な傷をもったことから自堕落な大学生活を送りアイデンティティクライシスに陥るという流れは、割とよくある筋でして、その点でも既視感のある展開でした。

家族は最終的に和解・収束してゆくのですが、生まれてこの方30年にもわたり諍いがあった家族がものの数年で分かり合えるか疑問に思いました。現実にそうした家庭不和で悩んでいる読者にとっては一つの希望になりうるかもしれない一方、その性急なエンディングは私のようなシニカルな読者にとっては非現実感・創作感を強く感じさせる結果となったと思います。

 

おわりに

いつもながら西さんの関西弁を交えた語彙のチョイスや語感は私の大好物なのですが、それは本作品でもいかんなく発揮されていたと思います。また私が読んだ西作品の中では最も一般受けしそうな雰囲気を感じました。

ただ、冠モノの賞を得るほど多くの方から支持を受けるほどの作品かというとちょっと疑問に感じまして、帯にあるような「自分は何を書くべきか・・・」は明らかに誇大であると思いました。

 

変わらず私にとって西さんの作品とは、エンタメ系の作品というより、その繊細で時に荒々しい語感の大胆さを愉しむ作品であると感じた次第です。

 

評価 ☆☆☆

2022/01/23

 

 

 

 

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