一言で言うと
本編は英国のみならず世界の法制度に影響を与えたマグナ・カルタ成立前後の約4年ほどを描く歴史ノンフィクション作品。
同筆者の作品でその名も『Magna Carta』というものがあり、本書とは内容の多くが被っています。『Magna Carta』ではプランタジネット朝より前、ノルマン・コンクエスト以来の英国の内戦の様子から、マグナ・カルタ成立の背景や内容、そしてその後への影響などが中心にそえられています。
では本編の特徴というと、中世英国の庶民の生活や文化史的な観点の内容が中心の一つであることです。もちろん、中心はジョン失地王と貴族との反目や戦闘が中心です。フランスからのちょっかいや教皇イノセント3世とのやり取りも描かれています。こうした王侯貴族の歴史を縦糸とすれば、その当時の一般市民の生活様式を横糸して描いている点は非常に興味深く読むことができました。
例えば、13世紀の服飾事情。王侯や富裕層が華美に着飾りはじめ、修道院や教会などのキリスト教世界でも類似の輩が発生。時の教皇イノセント3世は1215年のラテラノ公会議で、牧師たるもの質素たるべしとお触れを出したそう。これがまた細かくて、外套は長すぎたり短すぎたりして目立ってはならない、赤や緑の生地やその配色で楽しんではならない、長袖や長靴に華美な刺繍を施したりは駄目とか。日本でも衣食住って言いますし、表面を着飾るのは結構根源的な欲求なのかもしれません(だからこそ宗教的禁忌になりうるのかもしれませんが)。
他にも、当時の英国の食料事情とか。小麦・大麦などの穀物を主食とし、パンやビールなどが加工され、豆類やハーブの他、肉類(牛・羊・豚)も厳しい禁忌もなく食べられていたようです。またlampreyというキモ系魚介も食用とされるなど、私のイメージと違い英国の食材はバラエティが相応にあったのだと印象がやや変わりました。
なお、アルコールについては相当にお行儀が悪いとのことで、中世当時からお行儀が悪いのは有名?であったようです(教会の牧師も例外ではなかったとか)。
これ以外にも、当時の欧州世界の大学事情(エリートの宗教教育の場ですよね)とか、当時の言語事情(ラテン語がフランス語が公用語で各地で英語方言が喋られていたとか)とかがフィーチャーされていました。これも興味深く読めました。
おわりに
これまた近くの新古品店で500円程度で買ってきたものです。
著者のDan Jonesは中世という一見つまらなそうな題材をビビッドに描くとても才能のある作家さんだと感じています。安かったら他の本も読んでみたいと思います。
中世史に興味ある方(なんて滅多にいないでしょうが)にはおすすめできる作品です。
評価 ☆☆☆☆
2022/02/25