昨年ボッカチオ『デカメロン』を読了し、中世文学に興味を持ちました。そして本『カンタベリー物語』は『デカメロン』を下地にしていると聞き、読んでみた次第です。
文庫本で3冊にわたる本作、上巻を読了した時点の感想は、本家デカメロンよりも読みやすい、と感じました。
本家は10人が1日1話、10日間話を披露するというものでしたが、本作はひとり1話のようです。で、セッティングはまあデカメロンと類似の形式で、ある宿屋で一緒になった身分も職業も違うものがカンタベリー寺院へ共に巡礼に出向く道すがらにそれぞれが語るというものです。
本上巻では序章と5つの話(騎士の話、粉屋の話、家扶(wikiでは親分と訳されています)の話、料理人の話、法律家の話)が収録されています。
一番目を引いたのは粉屋の話。彼は、年の離れた若い奥さんを貰った大工の話をするのですが、下宿の学生が悪知恵を働かせて奥さんを寝取るという筋です。学生がノアの洪水にかこつけて大工をだまくらかすのですが、中世で広く旧約聖書の内容が信仰生活の下地に息づいていることを感じさせました。また、中世ルネサンスの入り口にあり、キリスト教的宗教的雰囲気がきしみ(たるみ)始めていることも感じました。
ちなみに解説によると、語り部の粉屋というのは下衆の代名詞?のようです。実は、今読んでいる別の英国モノの小説で粉屋(mill runner)の娘からイイトコに嫁に行ったというくだりがあり、粉ひきの父親をもって何がわるいのか、と読んだときは感じたのですが、下層の出であることの婉曲表現であったようです。
おわりに
やはり当時の人々の生活・文化などが分かる点が面白いと感じました。英国中世の文化についてはDan Jones氏のマグナ・カルタ関連の著作に幾つか言及があるのを見ましたが、こうした物語の方が圧倒的にビビッドであると感じました。
評価 ☆☆☆☆
2022/03/27