上巻・中巻と読んできましたが、最後は若干飽きを感じつつ、他の本に目移りしつつ、たらたらと読んでおりました。GWに入り何とか読了した次第です。
下巻では修道僧の物語、尼僧付きの僧の物語、第二の尼僧の物語、錬金術師の徒弟の話、賄い方の話、教区司祭の話、の計6話を収録。
最後はキリスト教的説教でゴール
どちらもルネサンスを代表する文学作品といえるデカメロンとカンタベリー物語。前者は人間賛歌の色調を常に感じる作品でしたが、後者カンタベリー物語は、上巻こそデカメロンに似ていた雰囲気ですが、最後の下では宗教関係者の話が多く、トリは教区司祭の話で締めくくられました。この点は著者チョーサーのキリスト教的価値観が強く反映されているのかなと感じました。人は罪を避けて生きるべき、と。
なお、教区司祭の話は、主に7つの大罪(高慢、妬み、怒り、怠惰、貪欲、貪食、姦淫)についての説教について延々と133ページに渡り語られるものです。…大罪のラインナップを見ると、つくづく人間の本性は変わらぬものだなあと感じます。例えば姦淫なんぞは著者の時代である600年も前からやめとけと言われているのに、今でもそれで叩かれる人が多いわけです。こうした『罪』には各々に潜む蜜の味があるのかもしれませんね。
で、この話はなかなかに退屈なのですが(説教ですからね)、私は我が事として反省しながら読みました。キリスト者ではありませんが、上記のような『罪』が心を乱し、判断を狂わせることがあると感じます。やはり業務遂行をフラットな心で行うためには(不動心が欲しい!)、こうした『罪』は避ける方がよろしいのでしょう。特に私はすぐにキレるし、自分より処遇のいいひとにはルサンチマンをメラメラと燃やしてしまいます。反省です。
おわりに
最後に訳者の桝井氏の解説でチョーサーの意図が語られており、それがなかなかに興味を引きました。曰く、巡礼行というフレームの中に多くの階層の人物とそれにふさわしい話を用意した一大集成を企図していたのではという旨です。ちょっと民俗学チックですね。
こうしてみると、キリスト教的価値観が色濃いながらもやはりルネスサンスの息吹を感じないわけにはいきません。このような神へのまなざしから人間へのまなざしへの転換が見え隠れしてくるところに、私は非常な興味を感じた次第です。
評価 ☆☆☆
2022/04/30