海外オヤジの読書ノート

中年おじさんによる半歩遅れた読書感想文です。今年はセカンドライフとキリスト教について考えたく!

逆境を超える企業の背後には骨太なストーリーが。個人の生き方にも示唆に富む作品|『ストーリーとしての競争戦略』著:楠木建

 

引き続きリモートワークが続いています。先日約2か月ぶりに出社して、会社の本棚に本作が安置されているのにふと気づき手に取りました。GWを利用して読んでみたものです。


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戦略という言葉が嫌いです。

これまで勤務していた会社では、どれもが現場感覚の希薄な経営層だったり、現場の気持ちが分からない本部の方が作っているという印象が強かったからです。日々業務にあたる私からはなんとも空疎に聞こえるのです(カスタマーファーストとかさ、顧客から搾り取った方が上司からほめられるのに、ジレンマを与えて判断に迷わせたらダメじゃん、みたいな)。そんなんだから、中期経営戦略とか5か年計画とかも、色々やっているけど、上の人たちが勝手にやってるな、という印象。

 

それでも若いころは少しは勉強してみました。ポーターの『競争の戦略』や『ブルーオーシャン戦略』など。差別化戦略(differentiation)とかコスト特化戦略(訳は適当です;cost-leadership)とか、言われればばなるほどと思うのですが、同時に「当たり前でないの?」という気も起きました(と言って自分ではひねり出せるわけではありませんが)。当たり前のことを大袈裟に表現している印象もあり、戦略という言葉を見るにつけ、私の色眼鏡はこの語に「胡散臭い」「勝手に作られた」という枕詞を添えて斜に構えて読んでいました。

 

そして、今回読ませていただいた本作。ストーリーとして戦略を読むというコンセプト。これには参りました。何しろ読み物として面白い。ガリバー(中古車買い取り)、ブックオフ(古書販売)、デル(PC直販)、アマゾンなど(ちょいと古め?)の事例の成功ストーリーが語られるのですが、これが面白い。それぞれ、スタート時は非常に立場が弱い。そして一見非合理と思えることを実行するガリバーは利幅の大きい中古車販売をあえてしない(中古業者へのオークション販売に特化)。ブックオフは一般のブティック型の専門古書店が手を出さない廉価の文庫本の買い取りを行うなど。でも、これらの「非合理」は、小賢しい合理性の積み上げでは到達できない骨太なストーリーの一環として語られることで大きな「合理」へと到達する。そして業界で一定の地位を固めた今となってはなかなか他社が到達しえない強固な差別化を築くに至る。さらに興味深いのは、この一見「非合理」に思えるストーリーのもとになっているのは人に役に立ちたいとか、人に良くしたいとか、そうした素朴な人間の本性に関する感情であったりすること。ブックオフならば、ユーザーの「もったいない」を無駄にしない。アマゾンならばユーザーに最高の選択を提供する、とか。こうした気持ちがストーリーを作り、そしてビジネスを差別化しているという事実。

 

苦境を逆転して成功したこうした会社群の話。実はこのストーリーは個人の競争・成長についても当て嵌まるのではないでしょうか。従来型の、良い大学に入り、良い企業に就職し、よい給料をエンジョイするという価値観(大分薄れてきましたかね?)。これは差別化と真逆にあるレッド・オーシャンではないでしょうか(韓国ドラマのmisaeng, black dog等見ているとつくづくそう感じます)。英語を勉強する・資格を取得するというのも差別化のキーにはならなくなりつつあるように感じます。それでも競争を生き抜かなけれならない。ではどうするのか。競争の深刻さ・辛さ以上に、自分の価値観を見極める必要があるのではないでしょうか。そして、自分なりの「誰の役に立ちたいのか」「どういう貢献をしていきたいのか」をじっくり練ることが実は強烈な差別化につながるのかもしれません。

 

高校生の息子には「お前マジ将来何になるんだよ」とか「ちゃんと勉強しないと生き残れないぜ」とか旧来の価値観をゴリ押ししている癖に、海外の辺境で行き詰まるおっさんがどの口叩くんだよ、という気もしましたが、読後心洗われてよりよい生き方について考えてしまいました(私も旧来の価値観から脱せていません。レッドオーシャンでバタついていますが)。

 

ということで、本作は戦略本・経営本としても読めますが、個人の生き方本として示唆に富む本であると感じました。生きるのって本当に楽ではないよなあ。

 

評価 ☆☆☆☆

2022/05/08

 

 

 

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